tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『生首に聞いてみろ』法月綸太郎

生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2)

生首に聞いてみろ (角川文庫 の 6-2)


彫刻家・川島伊作が病死した。彼が倒れる直前に完成させた愛娘の江知佳をモデルにした石膏像の首が切り取られ、持ち去られてしまう。江知佳の身を案じた叔父の川島敦子志は、法月綸太郎に調査を依頼するが・・・。

『硝子のハンマー』に続き本格ミステリを読みました。
こちらも論理的にさまざまな可能性を検討して真相に至るという過程が『硝子のハンマー』同様非常に面白かったです。
実は法月綸太郎さんの長編は初めてで(短編は読んだことがあります)、法月さんの作品でおなじみの探偵役「法月綸太郎」やその他のおなじみ(なのであろう)登場人物のことをほとんど知らなかったのですが、あまり戸惑うことなく設定に馴染めました。
というのもこの探偵役は他のミステリにありがちなちょっとエキセントリックだったり超天才だったりする、ある意味「特異な」人物ではなく、至極真っ当で常識的な、どこにでもいそうな人物だからです。
あまりに普通な人なので、主人公がこんなに普通すぎていいのかと思いつつも、自分の足で動いて事件を調べて、失敗も犯しつつ真相に近付いていくというのは現実的で好感が持てました。


トリックもよく考えられていると思いました。
物語中盤までは、石膏像の首が切られた事件について描かれます。
その後、中盤で若い女性の生首が発見され、それは石膏像のモデルとなった女性だと分かります。
殺人事件が起こるまでが長くて少し物語がまだるっこしくなってしまった感もありますが、前半で起きた石膏の首切断事件の謎が後半の殺人事件の謎とどう絡んでくるかが見所です。
前半で語られたさまざまな話が伏線となって後半の殺人事件の真相解明に至るあたりもよく練られています。
中盤まではあまりにもそれぞれの謎のピースがバラバラで、しかも人間関係も少々ややこしく、私などは頭が混乱してしまいそうになりましたが、それでもラストで全てのピースがはまるべき場所にピタリとはまった時にはとても気持ちよく感じました。
真相はなんとも後味が悪く、人間はなんと馬鹿で愚かなことか、とやりきれない気持ちになりました。


ただ、ミステリとしてはよく出来ていると思うけれど、ストーリー的には盛り上がりも少なくてちょっとスピード感に欠けるかな。
どうしても直前に読んだ『硝子のハンマー』と比べてしまって申し訳ないのですが、ストーリーとしての面白さでは『硝子のハンマー』の方が上でした。
本格ミステリのロジックの面白さを楽しみたい方におすすめ。
☆4つ。