tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ヘビイチゴ・サナトリウム』ほしおさなえ


女子校で起きた連続墜死事件。死んだ男性国語教師は女生徒と協力しあって書き上げた自作の新人賞受賞を死の直前に辞退していた。雑誌で作中の文章と同じものを発見したからだ。その文章の真の作者は誰なのか? 錯綜するテキストとP・オースターの小説『鍵のかかった部屋』。教師の自殺した妻が残した「ヘビイチゴサナトリウム」というウェブ・サイト。そして浮かび上がる密室殺人。詩人の見事なミステリ・デビュー作!

はぁ、なるほど、作者は詩人の方なんですか。
確かに文章は詩的で美しく、かと言ってごてごて装飾されているわけでもなくすっきりとしていて読みやすかったです。
だけどなぁ…どうにも分かりにくかった。
私、最後まで登場人物の名前を完全には覚え切れなかったんですけど(汗)
主役級の登場人物はともかくとして、いきなり初めの方で「美術部には8人の部員がいて、3年は誰々と誰々、2年は誰々と誰々…」なんて一気に列挙されてもとてもじゃないけれど覚えられませんよ。
しかもその1人1人の個性付けが弱すぎるのですね。
「XXは背が高い」とか「YYは誰もが振り返るような美少女だ」とか「ZZはメガネが似合う知的な風貌だ」とか、そういった描写が主要人物を除くとほとんどないため、登場人物がどこまで読み進めても一向に具体的な像となって浮かび上がってこないのです。
しかも地の文の「語り手」がコロコロ変わるため、誰が語り手かによって同じ人物の呼び名があだ名になったりファーストネームになったり苗字になったり…どれが誰やらさっぱり結びつかず、混乱するばかりでした。
たぶん、腰を落ち着けて一気に読む人にはそれほど難解でもないのだろうと思いますが、細切れ時間を使って少しずつ読み進める私には非常に辛い文章でした。
できれば登場人物リストと人物相関図をつけていただきたかったです。


そんな状態だったのできちんと読めたという自信は全くないのですが、謎解きが主眼ではなくて、解説の笠井潔さんが言うところの「自分と他人との境界の崩れ」を描きたかったんだな、というのはなんとなく分かりました。
でもそれにはやはり登場人物の個性付けが不十分ではないかと思いました。
自殺した少女・江崎ハルナのどこに他人を惹き付け、動かす力があったのか、私にはいまいち理解できませんでした。
残念ながら書き込み不足で説得力のない人物設定になってしまっていると感じました。
多感な年頃の少女たちの危うさや未熟さの描写や、少しホラーっぽい雰囲気作りなどは悪くないだけに、人物造形さえもう少しきちんとしていれば、そこそこ面白い青春学園ミステリになっていたと思うのですが…。
ごめんなさい、今回は厳しく評価させてもらいます。
☆2つ。