tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『初恋よ、さよならのキスをしよう』樋口有介


娘と訪れたスキー場で、柚木草平は高校時代の初恋の女性・卯月実可子と二十年ぶりに出会う。以前と変わらない美貌のまま、雑貨店オーナーとして活躍していた彼女が、再会後まもなく何者かに殺害される。実可子の姪から事件の調査を依頼された柚木は、高校の同級生を順に訪ねていくが…。事件の謎とともに、青春のほろ苦い思い出が柚木を深く悩ませる、私立探偵シリーズ第二弾。

『彼女はたぶん魔法を使う』から始まった「柚木草平シリーズ」の2作目。
フリーライター兼私立探偵で、綺麗な女性にめっぽう弱い柚木草平が活躍するこのシリーズ、柚木の軽薄さ同様ストーリーも軽妙で、とても気楽に読めるミステリです。
が、今回は柚木にとって身近で大切な人が被害者で、容疑者も高校時代の同級生ということで、少々ほろ苦く切ない物語になっています。
前作の軽妙さが少し薄れてしまっているので、残念に思う人もいるかもしれません。
私自身は切ない話が大好きなので、非常に楽しんで読みました。


今回の物語は、柚木が偶然にも高校時代の同級生で初恋の相手だった女性・実可子と20年ぶりに再会するところから始まります。
ゆっくり旧交を温める暇もなく何者かに殺されてしまう実可子。
柚木は自らの初恋に蹴りをつけるため、実可子殺しの犯人を探ろうとします。
「初恋の相手」とは言え、それは柚木にとってであって、実可子にとって柚木はただのクラスメートでしかなかったのですが、それゆえに柚木が知ることのなかった実可子の本当の姿や20年の間の変化が捜査の途上で明らかになっていくにつれ、それは柚木を苦しめ、傷つけることになります。
実可子は高校時代クラスの女王様として全男子生徒の憧れの的だったほどの美人なのですが、どうにも性格が悪すぎるような気がします。
幼い初恋ゆえに、相手の本質を見極められなかったのは仕方なかったとは言え、「憧れの君」が実は人に憎まれるほどに性悪だったと分かれば、柚木でなくてもショックを受けるでしょうね。
この作品は柚木の一人称で書かれているわりにはあまり彼の心情描写がないのですが、柚木が受けたショックを想像すると胸が痛みます。
実可子以外の同級生たちにも、柚木の知らなかった人間関係や人生があり、20年という時の長さと重さが柚木にのしかかります。
懐かしい人たちとの思いがけない再会というのはうれしいものでもありますが、時に悲しくつらいものにもなる。
そう分かっていても、いや分かっているからこそ、柚木は実可子の事件の真相を追わずにはいられなかったのでしょう。
そうしないと、ほろ苦い初恋の思い出も、いまだ引きずっている青春の影も、振り払って前に進むことができないから。
大人になるということの切なさがしみる物語でした。
☆4つ。


ところで前作で付き合っていた元上司の彼女は今回まったく出てこなかったけど、どうなったんだろう?
前作のラストでヤバいこと(笑)になっていたから、もしかしてけんか別れしちゃったのかしら…。