tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『コッペリア』加納朋子

コッペリア (講談社文庫)

コッペリア (講談社文庫)


恋をした相手は人形だった。作者は如月(きさらぎ)まゆら。だが、人形はエキセントリックな天才作家自らの手で破壊されてしまう。修復を進める僕の目の前に、人形に生き写しの女優・聖(ひじり)が現れた。まゆらドールと女優が競演を果たすとき、僕らは? 日本推理作家協会賞受賞作家が新境地を開く、初めての長編ミステリー。

癒し系日常の謎ミステリで知られる加納朋子さんの、これまでの作風のイメージを覆すようなちょっと暗い雰囲気の長編ミステリ作品です。
確かにかなり今までの作品とは違う、冷たいような、暗いような、そんな雰囲気が漂っていましたし、「こんなの加納朋子作品じゃない」という人もいそうではありますが、私はと言うと、けっこう楽しんで読んじゃいました。
もちろん私も駒子シリーズや陶子さんシリーズなどの、優しく暖かい加納さんの作風に惹かれているのですが、たまにはこういう異質な作品も悪くないと思います。
それに、確かに雰囲気はいつもの加納作品とは異なりますが、それは「人形」という、何か不気味な印象を与えるものを題材にしているからで、ストーリーそのものはいかにも加納さんらしい、と私は感じました。


この作品はミステリに分類されてはいますが、私としてはどちらかというと恋愛小説に分類したいところです。
いえ、そんな分類など何の意味もないのかもしれませんが。
天才人形作家の如月まゆらと、彼女が作る美しくも怖い印象を与える球体関節人形「まゆらドール」。
そのまゆらドールに惹かれる創也と了という二人の男。
さらにまゆらドールの一つに酷似している、アングラ劇団の看板女優、聖。
ネタばれになるので詳しくは書けませんが、この作品はこの4人+人形の奇妙な恋愛関係を描いた作品なのです。
彼らの関係は本当に奇妙で複雑で、不思議な雰囲気を醸し出しています。
ですが、少し歪んではいますが、基本的には平行線の恋物語
聖が演じるお芝居そのもののような切ない恋は、ある日起こった事件により、大きな転回点を迎えます。
いくつかの真実が明らかにされた後、迎えるこの恋物語の結末は、いつもの加納さんらしい優しさが感じられて、おかげで気持ちよく本を閉じることが出来ました。
人形と人との関係も興味深いですね。
女性なら誰でも幼い頃にお人形遊びをやったことがあるでしょうし、大人の間でも人形を愛でるコレクターも多いですが、その誰もが少なからず何らかの願いや想いを人形に託しているのではないでしょうか。
その願いや想いを託す相手が人形から人に移るとどうなるか…その答えがこの作品に描かれています。


恋愛小説としては一風変わっていてなかなか面白いと思いましたが、ミステリとしてはちょっと不完全燃焼気味かなという気がしました。
この手のトリックは単純明快でありながら読者をあっと言わせる意外性と驚きがなければ効果的ではないと思うのですが、残念ながらこの作品においてはちょっと分かりにくくて驚きが薄れてしまいました。
やっぱり加納さんの真骨頂は心温まる日常系ミステリにあるのでしょう。
ぜひ次作はそのような作品を期待したいところです。
と言うか「駒子シリーズ」の続編、まだですか〜!?(笑)
☆4つ。