tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『変身』東野圭吾

変身 (講談社文庫)

変身 (講談社文庫)


世界初の脳移植手術を受けた平凡な男を待ちうけていた過酷な運命の悪戯!
脳移植を受けた男の自己崩壊の悲劇。
平凡な青年・成瀬純一をある日突然、不慮の事故が襲った。
そして彼の頭に世界初の脳移植手術が行われた。
それまで画家を夢見て、優しい恋人を愛していた純一は、手術後徐々に性格が変わっていくのを、自分ではどうしようもない。
自己崩壊の恐怖に駆られた純一は自分に移植された脳の持主(ドナー)の正体を突き止める。

こ…怖かった!!
下手なホラーよりよっぽど怖い、医療サスペンスでした。


脳の移植手術を受けて以来、恋人を愛せなくなったり、性格が凶暴になったり、大好きだったはずの絵が描けなくなったりと、成瀬が別人のように変わっていく過程の描写が素晴らしい!
ずっと成瀬の一人称で物語が進んでいくのですが、最初「僕」だったのが「俺」になり、恋人の恵の呼び方も「恵」「メグ」から「女」に変わっていくのが、成瀬の人格の変化をリアルに表していて恐ろしかったです。
この話が医学的にリアルなものなのか、私には判断がつきませんが、それでも「脳」という普段あまり意識することのない臓器の神秘と怖さを感じました。
もしこの小説に書かれているようなことが実際に起こりうるとして、脳移植が技術的に可能となれば、それはある人間を全く別の人間に変えてしまうことが出来るようになるということですよね…。
そう考えると寒気がしました。
臓器移植をはじめとする先端医学には倫理とか道徳といったものが必ずと言っていいほど付きまとってきますが、脳移植には特に慎重にならなければならないのでは?と思います。


ラストシーンはとても切なくやるせない気持ちになりましたが、不思議と読後感は悪くはありませんでした。
ある意味この小説は、サスペンスでありながら恋愛小説でもあったのだと思います。
あっと驚くどんでん返しなどはありませんが、一度読み始めたら先が気になってやめられなくなる作品です。
映画化もされるそうですね。
どんな風になるのか楽しみです。
☆4つ。