tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『11文字の殺人』東野圭吾

11文字の殺人 (光文社文庫)

11文字の殺人 (光文社文庫)


「気が小さいのさ」あたしが覚えている彼の最後の言葉だ。あたしの恋人が殺された。彼は最近「狙われている」と怯えていた。そして、彼の遺品の中から、大切な資料が盗まれた。女流推理作家のあたしは、編集者の冬子とともに真相を追う。しかし彼を接点に、次々と人が殺されて…。サスペンス溢れる本格推理力作。

恋人を殺された推理小説作家の女性が、親友の編集者と協力して事件の真相に迫る長編推理小説
なんて言うか、「ミステリ」という言葉よりは「推理小説」という言葉が似合う作品です。
この感覚、分かります?
私もうまく説明できないのですが…ちょっと2時間サスペンスドラマっぽい筋書きというか。
だから軽い気持ちで読めていいわ…と思っていたら、最後に明かされる事件の背景にあるものの奥深さにやられました。
ネタばれになってしまうのであまり詳しくは書けませんが、人間は誰でも悪の部分を持っているということが感じられて、とても東野さんらしいなと思いました。
殺人の動機となる部分では、殺された方も、殺した方も、それぞれ「善」とは言い切れない黒いものを持っていて…どちらが悪かったとはっきり言うことはできないと感じました。
主人公の推理小説作家も最終的に事件の真相にたどり着きながら、犯人の罪を糾弾し司法の手に委ねることはできないままに話が終わってしまい、非常にやり切れないものが残ります。
この作品は東野さんの作品の中でもかなり初期のものですが、読後に残る後味の悪さは現在の東野作品と全然変わっていないなと思います。


とても気楽な気持ちで読めて、それなりには楽しめたのですが、やっぱり私は近年の重厚なテーマを持った東野作品の方が好きです。
何より登場人物を1人も好きになれなかったのが残念。
主人公も大切な人を殺されているのに、その悲しみや悔しさが十分には伝わってこなくて、感情移入がしづらかったです。
主人公でなくてもいいから、脇役にでも魅力的な人物がいればよかったのですが、それもいませんでしたし。
それでいて読後感が悪いとなると、ちょっと人には薦めづらい作品です。
う〜ん、次作に期待。
☆3つ。