tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『H2 8巻 少年サンデーコミックスワイド版』あだち充

H2 (8) (少年サンデーコミックス〈ワイド版〉)

H2 (8) (少年サンデーコミックス〈ワイド版〉)

球児の夢まであと2つ!
ついに準決勝へと駒を進めた千川高校野球部。
相手はこの春の選抜優勝校、名エース広田率いる栄京学園。
高校ナンバー1ピッチャーとの呼び声も高い広田に、さすがに歯が立たない千川ナイン。
しかし、4回終了までに12奪三振という最高の記録をマークしながら、その一方で「故意ではない」デッドボールを与えたり、柳にホームランを打たれたりと、不安定なところも見せる広田。
一方の比呂はいつもの剛速球に加え、時速140キロのフォークという大技を身につけた。
熱戦の行方は…?


この巻はほぼまるまる栄京学園戦です。
高校野球界でもっとも実力のあるピッチャーだと言われる一方で、黒いうわさもある広田。
大竹や島によると、昔から嫌なやつだったということですが、栄京の監督の影響も大きいのではないかと思います。
勝つためには手段を選ばず、野球の本当の実力ではなく、自分の命令や指揮に逆らわないということを重視しての選手起用…。
比呂と野田を中心に、千川ナインが実に生き生きと楽しそうにプレイするのに対して、栄京ナインはレギュラーから外されることをいつも恐れながらプレイしていて、味方のピンチを救うファインプレーが出てもチームメイトは誰もそのプレイをした選手に駆け寄ろうともしない。
高校野球にあるまじきプレイスタイルで、読んでいて腹が立ってきます。
やはり同じ高校球児たちにも嫌われているようで、英雄たち明和第一ナインは揃って千川を応援しています。
けれども途中で風向きが変わってくるんですね。
実力があるのに試合に出られないまま終わっていく選手がいるなどということが許されていいわけがないのです。
正捕手が怪我をして、ようやく活躍の機会を得た補欠のキャッチャー、小倉くんはあだち野球漫画のキャラクターらしいさわやかスポーツマンでいい感じです。


そんな感じで野球中心にずっとストーリーが展開していますが、ひかりや春華も出てこないわけではないです。
特にひかりの比呂を応援する姿がなんだか切ない…。
この巻のイチオシ名台詞はひかりが英雄に言ったこの一言。

そんなに一生懸命比呂を応援すると、後で後悔するかもよ。

一見すると、比呂が強敵になることを英雄に警告しているセリフですが、本当に「後悔する」かも知れないと恐れているのはひかりの方なんでしょうね。
英雄と比呂が順調に勝ち進んで甲子園で対戦することになったとき、どちらを応援すればよいのか、またどちらに勝ってほしいと望んでいるのか、ひかり自身まだ気持ちがはっきりしていなくて不安なのだと思います。
それに比べて英雄は比呂と対戦できる日が来るのが楽しみで仕方ないようですが…。
ふたりの「野球バカ」に惹かれてしまった宿命ですが、ちょっとかわいそうな感じです。