tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『占星術殺人事件』島田荘司

占星術殺人事件 (講談社文庫)

占星術殺人事件 (講談社文庫)


怪事件は、ひとりの画家の遺書から始まった。
その内容は、6人の処女から肉体各部をとり、星座に合わせて新しい人体を合成する、というもの。
画家は密室で殺された。
そして1カ月後には、6人の若い女性が行方不明のあげくバラバラ死体となって…。
奇想天外の構想、トリックで名探偵御手洗潔をデビューさせた、衝撃的傑作。

ミステリ好きな私ですが、じつはまだまだ定番と言われている作品も読めてなかったりします。
島田荘司さんの『占星術殺人事件』もそのひとつ。
実はこの作品、某人気ミステリ漫画によってトリックをパクられたことで有名な作品なのです。
私はそのミステリ漫画を全巻読破しています。
当然『占星術殺人事件』をパクった話も読んでいます。
すでにネタばらしをされているという興ざめ感もあって今まで避けてきたのですが、もうその漫画を読んでからだいぶ時間が経って内容も忘れ気味だし、名作といわれるミステリ小説を読まずにいるというのも…と思って読んでみることにしました。


確かにトリックは某ミステリ漫画そのものなので(いや、こっちが元なのですが)、読んでいればすぐ分かってしまいます。
かなり「目からうろこ」的な、びっくりするようなトリックなのですが、その漫画を先に読んでいたためにこの作品で驚きを味わうことができなかったのはやはり残念だと言わざるを得ません。
しかし、それでもこの作品の魅力は十分に楽しめました。
まずなんと言っても、探偵役の御手洗潔(この名前もいい!)の変人っぷりがいい感じですね。
セリフまわしが、ちょっと常人では思いつかないような、ひねった面白さ。
はたから見てる分には面白い人だけど、友達にはなりたくないな。
女嫌いみたいだし。
そんな御手洗の変人っぷりに振り回される友人の石岡君もなかなかいい味を出しています。
このコンビの会話を読むだけで、この作品は十分に楽しめるのではないでしょうか。


また、途中事件の謎を探るために、御手洗と石岡君は京都・大阪へやって来るのですが、京都生まれの大阪育ちな私にはなじみの地名ばかりで、いちいち景色まで詳細に思い浮かべることができ、なかなか楽しかったです。
特に祖父母の住む町の地名が出てきたのにはビックリ。
大阪の人だってあまり知らないマイナーな知名なのに…。
石岡君がその地名について風情のある地名だと思ったが実際に到着してみると…というくだりには思わず笑ってしまいました。
確かに地名だけ見ると字面が綺麗ですごくいい場所のように思えるんですよねぇ。
そんな細かいネタまで盛り込まれていることに感嘆しました。
さらに、御手洗と石岡君は嵐山の渡月橋のふもとの茶店で真犯人に会うのですが、この「琴聴茶屋」が、偶然にも今日の新聞に出ていました!
しかも関東と関西での桜餅の違いについての記事で!
作中で御手洗がオーダーするのも桜餅なんですよね〜。
それにしても桜餅って関東と関西ではずいぶん違うんですね。
きっと御手洗や石岡君も物珍しげに見たんだろうな〜(いや、犯人に会ってたんだからそれどころじゃなかったか!?)とかいろいろ想像できました。
偶然とはいえいいタイミングでした。
おかげで作品が2倍楽しめました。
と言うか桜餅が食べたくなりました(笑)


…とまあなんだか個人的な理由でかなり楽しんでしまいましたが、ミステリとしてももちろん名作といわれるだけのことはあると思います。
これでもか!とばかりに「読者への挑戦状」が2度も提示されるのも、ミステリ好きにはたまらないでしょうね。
こんなすごいトリックや奇抜なキャラクター性を持った登場人物を生み出せる島田荘司さんは素直にすごいと思いました。