tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ヘヴンリー・ブルー』村山由佳

ヘヴンリー・ブルー (集英社文庫)

ヘヴンリー・ブルー (集英社文庫)


8歳年上の姉、春妃が自分のボーイフレンドと恋に落ちた。精神科医として働く、美しく優しい姉と、やっと両思いになった同級生の歩太くんが。「嘘つき!一生恨んでやるから!」。口をついて出たとり返しのつかないあの言葉。あの日に戻りたい。あの日に戻れたら。お姉ちゃん、お姉ちゃん、私は…。夏姫の視点から描かれる『天使の卵』アナザーストーリー。文庫版特別エッセイ付き。

村山由佳さんの代表作『天使の卵』が映画化されるにあたり、コラボレーション企画として書かれた作品です。
小説というよりは詩と言った方が近いような気もしますが、『天使の卵』のヒロイン・春妃の妹、夏姫の視点から、『天使の卵』とその続編の『天使の梯子』で起こった出来事を時系列で回想するような内容になっており、この「天使」シリーズのダイジェスト版ともいえる位置づけです。
だからこそ、新たなストーリー展開はほとんどなく、新鮮味はありません。
それでも、姉とボーイフレンドを傷つけ失った夏姫の心情に焦点が置かれて描かれており、ストーリーを全て知っている者としては、物語の要所要所の場面が頭の中に甦り、胸が熱くなる部分もありました。
私が『天使の卵』を読んだのは大学に入ってすぐの頃でした。
あれから10年以上もの月日が流れましたが、今でもあの悲しくも光あふれるラストシーンは鮮やかに思い出すことができます。
村山さん自身も書かれている通り、こうして長い間記憶に残り、息長く売れ続ける作品があるというのは、作家にとって喜ばしいことだと思います。
その後村山さんはさまざまな作品を発表し、直木賞も受賞されましたが、やはり原点は『天使の卵』にあるのだと再確認できました。
文章の途中に挿入される挿絵は、歩太が描いた春妃のデッサン画をイメージしているそうです。
優しいタッチでいい雰囲気を醸し出していると思いました。


また、この文庫版には作者がSNSでごく親しい友人限定で公開していた日記も収録しています。
これがまた、さすが作家の書く日記は違うなぁという感じで、同じ日常の何気ないことを書いていても私の素人文章とはこうも違うものかと思わされました。
長らく田舎生活を送ってきた作者が、さまざまな事情から東京に仕事場を移し、都会のマンションで猫1匹と共に暮らす生活ぶりが、生き生きと描かれています。
この猫がなかなか愛らしくて心が和みます。
きっと村山さんにとってもこの上ない癒しの存在なんだろうなぁ。
村山さんが自分で用意する食事も、詳しく描写されているわけではないのになんだかとても美味しそう。
実際、美味しいものをよく知っていて、それを自分で作れる人なんだろうなと思います。
親しい人限定で公開していた日記だけあって、けっこうぶっちゃけたことも書いてあり、私は本編以上に楽しんでしまいました(笑)


天使の卵』『天使の梯子』を読んだ方は、ぜひ。
☆4つ。