tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『DIVE!!』森絵都

DIVE!!〈上〉 (角川文庫)

DIVE!!〈上〉 (角川文庫)


DIVE!!〈下〉 (角川文庫)

DIVE!!〈下〉 (角川文庫)


オリンピック出場をかけて、少年たちの熱く長い闘いがはじまる!
高さ10メートルから時速60キロで飛び込み、技の正確さと美しさを競うダイビング。赤字経営のクラブ存続の条件はなんとオリンピック出場だった! 少年たちの長く熱い夏が始まる。第52回小学館児童出版文化賞受賞作。

先日『風に舞い上がるビニールシート』で直木賞を受賞された森絵都さんのヤングアダルト向け青春スポ根小説です。
…と書くとなんだか汗臭い感じがしますが(^_^;)、とてもさわやかで気持ちのいい小説でした。


『永遠の出口』を読んだときにも思ったのですが、森さんってとてもシビアな目を持っていて、そのシビアな目で残酷なくらい現実をまざまざと描き出す作家さんですね。
この作品は少年少女向けの作品ですが、大人の目から見て子どもに見せたくないものを隠すでもごまかすでもなく、現実をありのままに書き切っています。
スポ根と言えば血と汗のにじむ努力だとか、勝利への闘志だとか、そういったものと切っても切り離せない関係にありますが、努力だけではどうにもならないことも世の中には多々あるということや、勝利ばかりが美しいわけではないということは紛れもない現実でありながら、しばしば子ども向けの物語においては見て見ぬふりをされてしまいます。
けれども森さんはそうはしない。
飛込競技でオリンピックを目指す少年たちの戦いの光と影両方にきちんと向き合って描いています。
少年たち一人一人のよいところ、悪いところもきちんと描いていて、例えば努力家で実力も高く男前の高校生・要一は、自信家で無謀なところがあって、恋愛経験もなし。
そうした短所や若さゆえの愚かさの部分の描写は、滑稽なくらい徹底的です。
自分と違うタイプの人物のそうした部分は笑って読めるのですが、自分と似たタイプの人物の場合は、グサグサと自分自身の胸にナイフを突き立てられているようで、笑えません。
私の場合は堅実なタイプで上がり性のレイジが試合前に行う縁起担ぎの数々の部分がそうでした。
あれは多分緊張しないタイプの人ならとても笑える描写なのでしょうが、私はレイジと同様上がり性で堅実だけれども地味なタイプなので、レイジの気持ちがとてもよく分かってしまって笑えませんでした。
できれば目を背けていたい自分の弱い部分にいやおうなく向き合わされて「あ痛たた…」という気分です。
けれども森さんのよいところはそんな風に容赦なくそれぞれの人物の弱点や欠点をありのまま描き出しながらも、それらを決して否定はしないというところだと思います。
「人それぞれでいいじゃない、人間って、人生って、そういうものだもの」と、ありのままを受け入れて、全ての登場人物に、それぞれに応じたハッピーエンドを用意してくれているので、とても気持ちよく読み終えることができました。


もちろん青春小説ならではの少年たちの成長の過程も鮮やかに描かれています。
飛び込みは怖そうなイメージが先行していましたが、厳しく難しい競技だからこそ、それを乗り越えた時に得られる爽快感があるのだとわかりました。
舞台がプールや海なのでこの季節に読むにはぴったりかも。
なんだか久々にプールに泳ぎに行きたくなりました。
☆4つ。