tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『盲導犬クイールの一生』石黒謙吾

盲導犬クイールの一生 (文春文庫PLUS)

盲導犬クイールの一生 (文春文庫PLUS)


『人間らしい歩き方を思い出させてくれた』との言葉を残して、パートナー(使用者)はこの世を去った。
そのあと、クイールはどのように生きたのか。
生まれた瞬間から息をひきとるまでをモノクロームの優しい写真と文章で綴る、盲導犬クイールの生涯。
静かな感動の記録。

映画版「クイール」を観て大感動したので、文庫化を機に原作本を購入しました。
こういうお話には弱いですね。
絶対にボロボロ泣いてしまいます。


でも、この本の素晴らしいところは、感動の美談ではないという点です。
私は子どもの頃から盲導犬が大好きで、さまざまな盲導犬関連の本を読んできましたが、その多くは「盲導犬サーブ」の話に代表されるように、困難に直面しても盲導犬としての職務を全うしたといったような「美談」でした。
けれどもクイールは特に美談の題材となるような犬ではありません。
ごく普通の人の家でうまれ、いくつかの別れと出会いを繰り返しながら訓練を受けて盲導犬となり、パートナーの目となって仕事をし、静かにその一生を終えていった、普通の犬なのです。
盲導犬であったという以外は、そのあたりにいる普通の飼い犬となんら変わらないのです。
映画でも訓練士役の椎名桔平さんが「クー、おまえは最高の普通だったよ」と言うシーンがありますが、その「普通さ」がなによりクイールの魅力であり、感動を呼ぶところだと思います。
この本は、ごく普通の1頭の盲導犬の生涯を通して、盲導犬のお仕事の内容や、盲導犬が今置かれている状況や、盲導犬を育成する大変さを紹介した本なのです。
単なる感動だけに終わらないこの本をより多くの人が読んで、盲導犬への理解が深まり、もっとたくさんの光を失った人たちが盲導犬と共に新たな人生を送るきっかけを得られるといいと思います。
ありがとう、クイール
そして、クイールだけでなく人間を助け、癒し、共に生きる(生きた)すべての犬たちへ感謝したくなる本です。
モノクロの優しい写真が美しく、文章も平易で読みやすいので、小学生の読書感想文にもよいのではないでしょうか(ちょうど夏休みですし)。
☆5つ。