tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『A to Z』山田詠美

A2Z (講談社文庫)

A2Z (講談社文庫)


文芸編集者・夏美は、年下の郵便局員・成生(なるお)と恋に落ちた。
同業者の夫・一浩は、恋人の存在を打ち明ける。
恋と結婚、仕事への情熱。
あるべき男女関係をぶち壊しているように思われるかもしれないが、今の私たちには、これが形――。
AからZまでの26文字にこめられた、大人の恋のすべて。
読売文学賞受賞作。

時々ミステリから離れて無性に読みたくなるのが恋愛小説(私だけ??)。
今回は山田詠美さんの『A to Z』をチョイスしました。
この作品には少し変わった仕掛けが施されています。
タイトルの通り、作品中にaccidentから始まってアルファベット順に、物語にまつわる英単語が登場するのです。
こういう仕掛けは大好きです。
次はどんな単語かな〜といろいろ想像しながら読むのが楽しいですね。
山田詠美さんは特にそういう仕掛けがうまい作家さんだと思います。
最初の方の、「たったの26文字で、全ての関係を表せる言語がある」(←原文どおりではありません)という一文も好きです。
確かにね〜、日本語はひらがな・カタカナ・漢字・アルファベットと、山のように文字を使う言語だもんなぁ。


肝心の物語のほうは、いわゆる不倫(というか浮気)の恋の話です。
当然ながら、秘めなければならない恋には嘘がつきもの。
主人公の夫は、浮気がばれたときに、さらに嘘を重ねるのではなく、開き直ったかのように、「彼女が好きだけれども、君のことも大切で、失いたくない」と主人公に言います。
嘘の後の、本当の気持ちを表す言葉…なんだけど、やっぱりちょっと身勝手なんじゃない?と言いたくもなるなぁ…。
その後主人公も年下の男性と恋愛関係になるのですが、こちらは嘘をつき通そうとします(最後にはばれるけど)。
でも、嘘はつくことで、本当の気持ちを明らかにさせるものなのかもしれません。
嘘をつかれた人にとっても、嘘をついた本人にとっても。