tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

Mr.Children DOME & STADIUM TOUR 2017 Thanksgiving 25 @ナゴヤドーム (6/10)

*曲名のネタバレはありません。


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今年でデビュー25周年を迎えたMr.Children
それを記念して開催された、「感謝祭」と銘打たれたツアーの初日公演に参加してきました。


25周年記念ツアーであり、直前に配信限定とはいえベストアルバムが発売されたわけですから、当然期待するのはシングル曲満載の豪華セットリスト、そしてそれに彩りを加える華やかな演出。
もちろんどちらの期待も裏切られることはありませんでした。
オープニングの映像からもう込み上げるものがありましたが、同じような人は多かったのではないでしょうか。
次々に演奏される、懐かしい曲の数々に、涙と笑みがあふれます。
桜井さんが何度か「もうお腹いっぱいでしょ?ここで帰ってもいいくらいだよ」と言うくらいにヒット曲連発で、歌詞も覚えている曲ばかりで全曲一緒に歌ってしまいそうでした。


特に私のようなアラフォー世代にとっては、たまらない選曲だったと思います。
ミスチルが一番売れていた時代は1990年代で、それはJ-POP全盛期と重なります。
そして、その時代に中学・高校・大学の青春時代を過ごしたのが私たちの世代なのです。
この世代はロスジェネだの氷河期世代だのとも呼ばれ、あまりいい目に遭っていないと言われがちな世代です。
けれども、J-POP全盛期のミリオンヒット曲を聴けば、即座にたくさんの思い出がよみがえってくる。
楽しい時間をさらに盛り上げてくれた音楽、辛い時に励まし、背中を押してくれた音楽――。
そしてそうした音楽の思い出を、同世代の人たちと共有できるということ。
10代~20代前半をミスチルをはじめとするJ-POPアーティストたちの大ヒット曲と共に過ごせたということはどんなに幸せなことだったかと、改めてミスチルに思い知らされたような気がしました。


シングル曲ばかりではなく、合間に演奏されるちょっとマイナーな曲もまたよいアクセントになっていました。
まさかこれをやるとは……というような意外な曲もあり、単なるベストアルバムライブではないひねりが効いていて、新しいファンから古参のファン、ライトなファンからマニアックなファンまで、全てのファンが楽しめるようにと工夫された構成が素晴らしいと思いました。
また、今回は管弦楽器がサポートメンバーに入っていたため、音に厚みがあったのがとてもよかったです。
ここ最近はミスチルの4人+1人か2人のサポートメンバーというシンプルなバンド構成だったのですが、やはりサックスやトランペット、バイオリンやチェロなどの生音があるのとないのとでは、迫力と深みが全く違うと感じました。
映像や特効といった演出も凝ってはいましたが、主役はあくまでも音楽で、豪華な曲の数々を最高の音で届けようというメンバーたちの気持ちが伝わりました。
この日はツアー初日ということもあり、桜井さんが曲の入りを間違えたり、ステージの他の場所に移動する時にマイクを持っていくのを忘れたりなど、ちょっとドタバタ感もありましたが、それもライブの醍醐味。
CDでもテレビでも味わえない、ライブならではの空気感に酔いしれた3時間半の公演でした。


この日は注釈付指定席での参加だったため、一部見えづらい演出もありました。
8月に行われる長居スタジアムでの公演にも参加する予定なので、内容は同じでもまた違った見方ができたらいいなと期待しています。
座席位置や周りのお客さんなど、参加する日の状況によって印象が変わる、だからライブ参戦はやめられません。
ミスチル25周年イヤーはまだまだ始まったばかり。
引き続き一緒に楽しんでいきたいと思います。

『自薦 THE どんでん返し』


十七歳年下の女性と結婚した助教授。妻が恐るべき運命を告白する…。ベストセラーを目指せと、編集長にたきつけられた作家はどこへ…。完璧なアリバイがあるのに、自分が犯人と供述する女子高生の目的は…。貸別荘で発見された五つの死体。全員死亡しているため、誰が犯人で誰が被害者なのか不明だ…。推理作家が、猟奇殺人の動機を解明すべく頼った人物とは…。独身の資産家を訪ねた甥。その甥には完全犯罪の計画があった…。六つのどんでん返しが、あなたを虜にする。

先日『2』を読んだので、順番が逆ですが第一弾の方も読んでみることにしました。
こういうアンソロジーは気軽にいろんな作家さんの作品が楽しめるのでいいですね。
ちょっと試食してみよう、という感覚でしょうか。
ただ、今回の未読作家は西澤保彦さんだけでした。
もしかすると西澤さんも別のアンソロジーでは読んだことがあったかもしれません。
他の執筆陣も、綾辻行人さん、有栖川有栖さん、貫井徳郎さん、法月綸太郎さん、東川篤哉さんという錚々たるメンバーで、さすがに読みやすさと一定のクオリティは折り紙つきです。


作品の質についてはさすがのものなのですが、タイトルの「どんでん返し」については、「どんでん返し」といえるほどの驚きの展開はあまりない、というのが正直な印象です。
一番「どんでん返し」っぽいのは法月綸太郎さんの「カニバリズム小論」でしょうか。
最後まで読んで、そういうことだったのかと膝を打ちました。
カニバリズム」というだけあってグロテスクなところは個人的にはあまり好きではありませんが、ミステリとしてはオチがきれいに決まっていてよかったと思います。
有栖川有栖さんの「書く機械 (ライティング・マシン)」の、思わぬ方向へと向かっていく展開も面白かったです。
作家さんが作家のことを書いた話というのは面白いものですね。
ついついご自分の経験も反映されているのかな、などと邪推してしまいますがどうなのでしょう。
作中に描かれている情景を思い浮かべてみると、ぞっとするやら笑えてくるやら……。
どちらかというとユーモアミステリに分類される話だと思います。
ユーモアミステリといえば東川篤哉さんの「藤枝邸の完全なる密室」は犯人の滑稽さが笑えました。
密室を作ったはずが実は――というミステリとしてのオチも面白かったです。


個人的な好みで言えば、貫井徳郎さんの「蝶番の問題」は、登場人物が書いた手記の文章の中にすべての手がかりが含まれているというもので、読者も注意深く読めば真相にたどり着けるというフェアさがとても好きです。
やはりミステリは、物語を読むだけでなく、自分も謎解きに参加できるとさらに楽しめますね。
美形の俺様推理作家という探偵役・吉祥院先輩の人物造形も面白いです。
西澤保彦さんの「アリバイ・ジ・アンビバレンス」も登場人物の面白さで楽しませてくれる作品でした。
最後の方はメインのキャラクターふたりの会話のみで構成されており、推理合戦の行方が存分に楽しめます。
最後に、好きな作家のひとりである綾辻行人さんですが、今回の作品「再生」は私にはグロテスクすぎてちょっとつらかったです。
ミステリというよりはホラーなので、好みが分かれそうな気がします。
最後のオチには心底ゾッとしました。
この怖さが好きな人にはたまらないのでしょうけども……。


気分良く読める作品ばかりではなかったですが、どの作家さんの文章も読みやすく、長すぎず短すぎない適度なボリュームで、気になる作家さんが収録されているという場合は読んでみて損のないアンソロジーだと思います。
もし第3弾があるとしたら、今度はもっと「どんでん返し」の多いものを期待したいです。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp

『虚ろな十字架』東野圭吾

虚ろな十字架 (光文社文庫)

虚ろな十字架 (光文社文庫)


中原道正・小夜子夫妻は一人娘を殺害した犯人に死刑判決が出た後、離婚した。数年後、今度は小夜子が刺殺されるが、すぐに犯人・町村が出頭する。中原は、死刑を望む小夜子の両親の相談に乗るうち、彼女が犯罪被害者遺族の立場から死刑廃止反対を訴えていたと知る。一方、町村の娘婿である仁科史也は、離婚して町村たちと縁を切るよう母親から迫られていた―。

東野さんの社会派ミステリは久しぶりのような気がします。
題材が重く難しいものであっても、東野作品ならではのリーダビリティの高さのおかげですいすい読めるのがいいですね。
物語の展開を楽しみつつ、いろいろ考えさせられました。


何について考えさせられるかというと、本作では「死刑制度」です。
死刑制度を題材にした作品というと、個人的には高野和明さんの『13階段』が強く印象に残っていますが、それとはまた別の視点から死刑制度について考えさせられるのが本作です。
主人公の中原は幼い娘を強盗に殺された過去を持ちます。
犯人に死刑が宣告された後、妻の小夜子と別れて数年が経ったある日、中原のもとに小夜子が殺されたという思わぬ知らせが届きます。
自分と別れてからの小夜子の軌跡をたどるうちに、小夜子が殺された事件についての思わぬ事実を知ることになり――というミステリを楽しみながら、犯罪被害者の立場、加害者の立場、被害者遺族の立場、加害者の身内の立場など、多角的な視点から死刑制度を考えることができるようになっています。
この構成が巧みで、それほどボリュームのある作品ではないのですが、大長編と変わらない読み応えがありました。


私はどちらかというと死刑制度については肯定派ですが、死刑制度が万能であると思っているわけでもありません。
本作で描かれているように、犯人が死刑になっても、被害者の命が戻ってくるわけではなく、遺族が本当の意味で救われるのかという点については疑問が残ります。
反省も謝罪もないまま刑が執行されてこの世を去っていく死刑囚も少なくないでしょう。
生きていれば辛いことも悲しいことも苦しいこともあるでしょうが、死んだらそのようなこともないわけで、ある意味死は救いだとも言えます。
人の命を理不尽に奪った犯罪者であっても人権は守られるべきだとか、死刑は残酷だとか、そういった理屈での死刑廃止論は私には響きませんが、だからといって死刑に本当に意義があるかと問われると「うーん」と考え込んでしまうというのが正直なところです。
小夜子の「人を殺した人間は全員死刑にすべきだ」という考え方はちょっと極端にも感じました。
愛娘を殺されているのですから当たり前ともいえますが、感情的な意見は危険だろうなとも思います。
では死刑に代わる、本当に遺族や被害者が納得できる刑罰があるのかと考えてみると、それもまた難しい。
現状では「無期懲役」は死刑の代わりになるとは思えませんし、終身刑は犯罪者を税金で生かし続けるのかという批判も出そうです。
遺族や被害者を救済しつつ、凶悪犯罪の抑止にもなるような刑罰があればよいのでしょうが、そうなかなかうまい方法はないのだろうなと思うとなんとも虚しい気持ちになります。


裁判員制度が導入されたことにより、一般人が死刑判決に関わる時代になりました。
つまり、死刑制度は誰にとっても無関係なものではないのです。
だからこそ、死刑制度や司法について、ひとりひとりが考えを深めていくことが重要になりつつあると思います。
この作品はミステリ小説として楽しめるだけでなく、考える一助となってくれる一冊で、ぜひ多くの人に読まれてほしいと思いました。
題材が題材なので読後感はいいとは言い難く、もやもやとしたものが残ってしまいますが、それでも読めてよかったと思える作品です。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp