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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『星籠の海』島田荘司

星籠の海(上) (講談社文庫)

星籠の海(上) (講談社文庫)

星籠の海(下) (講談社文庫)

星籠の海(下) (講談社文庫)


瀬戸内の小島に、死体が次々と流れ着く。奇怪な相談を受けた御手洗潔は石岡和己とともに現地へ赴き、事件の鍵は古から栄えた港町・鞆(とも)にあることを見抜く。その鞆では、運命の糸に操られるように、一見無関係の複数の事件が同時進行で発生していた――。伝説の名探偵が複雑に絡み合った難事件に挑む! 二〇一六年六月四日公開、玉木宏主演映画『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』原作

御手洗潔」シリーズ28作目。
いやぁ、このシリーズそんなに長く続いていたのね、と改めて感心してしまいました。
何しろ私はリアルタイムで読んでおらず、既読作品はシリーズのほんの一部だけなのです。
それでも十分このシリーズの魅力は伝わっているのですから、それだけ島田さんの力量が高いということでしょう。


作中の時系列的には、『ロシア幽霊軍艦事件』の直後ということになるようです。
御手洗と石岡はまだ横浜の馬車道に住んでおり、依頼を受けて愛媛県松山市、そして広島県福山市へと赴くことになります。
最初は、瀬戸内海に浮かぶ小島・興居(ごご)島に次々男性の死体が流れ着くという謎を解くために、松山経由で興居島へ向かいます。
その謎は福山へつながっていき、御手洗たちはさらに大きな事件に巻き込まれ、さらには幕末の史料に残された「星籠(せいろ)」という文字の謎に立ち向かっていきます。
福山は島田荘司さんの出身地。
そのため気合が入ったのか、スケールの大きさと広げた風呂敷の大きさはシリーズ随一と言っていいのではないでしょうか。
瀬戸内海の地理的特性、福山・鞆の歴史、村上水軍、黒船来航、怪しげな新興宗教、現在の日本における外交と安全保障の問題……。
よくぞここまでめいっぱい盛り込みましたと言いたくなるくらい、島田さんが書きたかったのであろうものが「全部盛り」になっているという印象です。
もちろん登場人物たちはみないつものように個性的だし、その個性的な登場人物たちの織り成すドラマやユーモアのある会話もたっぷり、さらには御手洗と石岡のBL要素(!?)まであって、ファンサービスも抜かりなし。
でも、ここまでてんこ盛りにしておきながら、ストーリーに破たんがなく、それどころかしっかり伏線も機能してひとつのミステリとしてまとまっているのがさすがとしか言いようがありません。


個人的に、今年秋に松山と広島への旅行を予定しているので、思わぬ形でちょっとした予習ができた気がしてうれしくなりました。
村上水軍というのもいろんなところで名前はよく聞くものの、いまひとつどのようなものだったのか分かっていなかったのが、この作品で非常に分かりやすく解説されているおかげで多少は知識がついたのではないかと思います。
戦国時代の話だと思っていたら、それが幕末の国難の時代にまでつながっていることが分かり、断片的な知識がつながって点ではなく線としての歴史を感じることができました。
また、その歴史の話が現在の日本が置かれている状況にも重ね合わされているため、より身近なものとして感じられました。
歴史に興味はあるし、もっと知りたいとも思うけれど、具体的にどんな本を読めばいいのか分からないという私のような人間にとっては、こうして好きなジャンルの小説を通して歴史のことも学べるのはとてもありがたいことです。
鞆の街の様子も、島田さんの地元なのですからきっとリアリティある描写になっているのでしょうね。
崖の上のポニョ」などの映画でしか知らなかった場所が、急に親近感を感じられる場所になりました。
日本の歴史上、非常に重要な地であるという鞆に、いずれ行ってみたいと思います。


ミステリとしては読者が推理する余地はあまりありませんが、御手洗の超人的な頭脳による謎解きを味わうのが本作の醍醐味です。
バラバラに見えていたエピソードが少しずつつながっていくのも、読んでいて気持ちよかったです。
上下巻、それぞれ600ページ近い大ボリュームですが、長さをあまり感じることなく一気に読めました。
学問的な内容も含んでいながら難解さもなく、このリーダビリティの高さには感心するしかありません。
☆4つ。


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