tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『御手洗潔の挨拶』島田荘司

御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)

御手洗潔の挨拶 (講談社文庫)


嵐の夜、マンションの11階から姿を消した男が、13分後、走る電車に飛びこんで死ぬ。
しかし全力疾走しても辿りつけない距離で、その首には絞殺の痕もついていた。
男は殺されるために謎の移動をしたのか?
奇想天外とみえるトリックを秘めた4つの事件に名探偵御手洗潔が挑む名作。

島田荘司作品3冊目。
御手洗潔と石岡和巳のおなじみのコンビが活躍する短編が4つ収められている『御手洗潔の挨拶』。
短編と言っても一つ一つが長編並みの内容の濃さ。
御手洗&石岡が好きな人なら大いに楽しめる作品です。


御手洗の変人ぶりはもちろん短編でも変わらないのですが、この本では御手洗の新たな魅力が発見できるのではないでしょうか。
それは、御手洗の意外(?)な優しさです。
『数字錠』という作品では、不幸ないきさつから罪を犯してしまった犯人に対する御手洗と石岡の思いやりが胸にしみます。
ある理由から、この事件の解決後「コーヒーは飲まない」と決意する2人。
その後の作品を読んでいると、確かに彼らはコーヒーではなく紅茶党に変わっているのです。
作者の細かい気配りがうれしいですね。
また、『ギリシャの犬』では、御手洗の異常とも言えるかもしれない犬好きが発覚します。
最初事件の依頼を受けた時気が乗らなさそうだった御手洗が、この事件に犬が関わっていると分かった途端俄然やる気になるくだりがおかしくて笑ってしまいます。
ですが、私自身も犬好きなこともあり、うれしそうに犬に接する御手洗の姿は読んでいてうれしくなりました。
このような動物好きの一面も、御手洗の少々常人から外れた性質の中に隠された優しさの証であるような気がします。


とにかく、御手洗ファンにとっては必読の書です。
『疾走する死者』におけるギターの名手としての御手洗もなかなかかっこいいです。