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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『虹果て村の秘密』有栖川有栖

虹果て村の秘密 (講談社文庫)

虹果て村の秘密 (講談社文庫)


推理作家になるという夢を持つ12歳の秀介は、同級生の優希と虹果て村で夏休みを過ごす。「夜に虹が出たら人が死ぬ」という村の言い伝え通りに、男性が密室状態の自宅で殺害される。折しも土砂崩れのため犯人と共に村に閉じこめられた二人は知恵を振り絞り謎に挑む!本格ミステリの名手による珠玉の推理。

「かつて子どもだったあなたと少年少女のための――」というキャッチコピーで刊行されている講談社ミステリーランドの中の1作品です。
このミステリーランド、わりと評判の良い作品が多かったので、ぜひぜひもっと文庫化を進めていただけるといいなぁと思っているのですが、今後の展開予定はどうなっているのでしょうか。
確か執筆予定でまだ刊行されていない作家さんもおられたはずですが…。


さて、そういう少年少女が読むことを想定した叢書なので、本作もミステリ初心者を意識した作品になっています。
小学6年生で、推理小説家志望の秀介は、憧れの推理小説家・二宮ミサト先生の娘で同級生の優希と共に、ミサト先生の別荘がある虹果て村で夏休みを過ごすことになります。
山に囲まれた自然豊かな虹果て村は現在、高速道路建設の賛成派と反対派が分かれてちょっとした対立が起きていました。
そんな中、高速道路建設反対派の笹本という男が何者かに殺されるという事件が発生します。
笹本は密室で殺されており、手にはダイイング・メッセージと思われる本を1冊持っていました。
接近中の台風による大雨で土砂崩れが発生し、外部との行き来ができなくなった虹果て村。
やがて、第二の事件が発生します。
秀介は刑事志望の優希と共に犯人を突き止めようとします。


何とも懇切丁寧で、謎もこのボリュームにしては大盤振る舞いという印象で、有栖川さんのこだわりと心配りが感じられます。
ミステリを初めて読む子どもたちが読者になることを想定しているのでしょう、本格ミステリとはなんぞやというところから始まり、ミステリとミステリーの違い、密室の定義、ロジックを重視した謎解きの展開の仕方などを分かりやすい言葉できちんと説明し、さらにはミステリの結末やトリックを未読の人に話してはいけないというネタバレに対する注意喚起までしています。
その細やかな気配りと親切さに、なんだか感動してしまいました。
有栖川さん、いい人だなぁ。
謎解きの方も、密室殺人にダイイング・メッセージ(2つも!)に動機の謎にクローズド・サークルにおける犯人探しに…としっかり本格ミステリの基本を盛り込んでおり、ロジックに基づいて推理を展開していく本格派。
子ども向けだからと言って手を抜かず、おそらく限られたページ数であったと思いますがその中でこれだけ盛りだくさんに謎解きが楽しめるように考え尽くされていて、さすが本格ミステリをこよなく愛する作者だけあるなぁと感心しきりでした。
まさにミステリの入門書にぴったりの、まるで教科書のような作品だと思います。


ストーリーには高速道路建設と自然保護とどちらを取るのかという社会問題が絡められていて、これもうまいなと思いました。
殺人事件の動機の部分に関わってくるのももちろんですが、賛成派と反対派、それぞれの意見がしっかり書かれており、どちらの言い分もそれなりに納得できるところも、よく分からないところもあるようなものになっています。
決してどちらかの意見が正しいというような偏った書き方になっていないところが素晴らしいですね。
考え方の異なる相手の意見であってもまずは耳を傾けるということの重要性、そして社会問題の多くは一概にどちらが正しくてどちらが間違っているとは言い切れないようなものばかりなのだということが分かりやすく書かれています。
子ども向けの作品ということを意識しているからこその書き方だと思いますが、これを読んだ子どもたちが、異なる意見や考え方も尊重できるような人になってほしいという願いが伝わってきました。
有栖川さん、まるで教育者のようですね。
お見事。


欲を言えば、どんでん返しというか、インパクトのある驚きが欲しかったです。
読んでいてびっくりさせられた本というのは、後々まで長く記憶に残りますし、それはきっと子どもにとってよい読書経験となるはずだからです。
それから、結局台風に足止めされていて登場しなかった二宮ミサト先生にも、ぜひご登場いただきたかったなぁ…。
それでも、なかなかよい作品で満足でした。
☆4つ。