tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ペルシャ猫の謎』有栖川有栖

ペルシャ猫の謎 (講談社文庫)

ペルシャ猫の謎 (講談社文庫)


「買いなさい。損はさせないから」話題騒然の表題作「ペルシャ猫の謎」。血塗られた舞台に愛と憎しみが交錯する「切り裂きジャックを待ちながら」、名バイプレーヤー・森下刑事が主役となって名推理を披露する「赤い帽子」など、粒よりの傑作集。「国名シリーズ」第五弾、火村・有栖川の名コンビはパワー全開。

読む本のストックがなくなってしまったので、何かないかと探してみたら本棚から見つかった未読本がこれ。
一体何年前から積読になっていたのでしょう…。
いつ買ったのかさっぱり記憶にありません(^^;)
ま、とりあえず読む本があってよかった…。


買ったことさえ覚えていないのですから、どんな内容なのかもさっぱり分からないままに読み始めました。
そうしたら、どうやらこの作品は火村シリーズ(作家アリスシリーズともいうのでしょうか?)の中でも異色作とされているようで…。
確かにストレートな本格ミステリがほとんどない印象。
番外編的な作品が多く、どちらかというとコアなファン向けの短編集だったかもしれません。


一番最初に収録されている「切り裂きジャックを待ちながら」からしてもう異色ですね。
せりふ回しからして妙にお芝居っぽい(実際に劇団を舞台とした殺人事件の話なのですが)物語だなと思っていたら、ミステリを題材にしたテレビの特別番組内で放映されたドラマから派生した話なのだそうで、なるほどと思いました。
設定としてはこの短編集の中では一番本格ミステリっぽいのですが、謎解きとしてはちょっと物足りない印象がぬぐえませんでした。
短編だとこんなものかなぁ…。
一番面白かったのは「赤い帽子」。
実はこの作品、火村と有栖川有栖は直接は登場しません。
若き森下刑事を主人公とした、警察小説のような雰囲気です。
単純に犯人を追求するというだけでなく、森下の内面も描かれていて、そこが他の収録作品とは違った味わいがあってよかったと思います。
しかし火村シリーズなのに火村が出てこない作品が一番よかったというのもなんですが…。


また、そもそもミステリですらない作品もいくつか収録されていて、「悲劇的」もその一つです。
これは火村が大学で受け持っている学生のレポートを題材にしたもの。
身近である事件に遭遇した学生が、世界の無慈悲さと悲劇に対する怒りをたたみかけるレポートに対し、火村が最後に書き加えた一文が印象的です。
ただ、ネタとしてはそれだけなので、謎解きから離れて大学の助教授としての火村の側面が垣間見れて興味深くはあるものの、やはりちょっと物足りない感じです。
「猫と雨と助教授と」もミステリではなく、火村の猫好きの側面を描いたボーナストラック的な超短編でした。
おそらくこうした「名探偵」としての火村ではない、一人の人間としての火村を描いた作品は、ファンにとってはたまらないものなのでしょう。
残念ながら私はあまり火村シリーズに思い入れがないので、番外編的な作品よりは王道の謎解き作品を読みたかったなというのが正直なところです。


気軽に読める作品ばかりで読みやすいのは確かでしたが、どうにも物足りないのが残念。
がっつり本格ミステリを読みたかったなぁ。
もう少し他の火村シリーズを読んでから読むべき短編集だったと思います。
☆3つ。