tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『三匹のおっさん』有川浩

三匹のおっさん (文春文庫)

三匹のおっさん (文春文庫)


還暦ぐらいでジジイの箱に蹴り込まれてたまるか!定年を迎えて一念発起した剣道の達人・キヨ、経営する居酒屋も息子に任せられるようになってきた柔道の達人・シゲ、遅くできた一人娘を溺愛する町工場経営者で機械をいじらせたら右に出るものナシの頭脳派・ノリ。かつての悪ガキ三人組が結成した自警団が、痴漢、詐欺、動物虐待などご町内にはびこる悪を成敗!その活躍はやがてキヨの息子夫婦や孫の祐希、ノリの愛娘・早苗らにも影響を与えてゆき……。シリーズ第二弾『三匹のおっさん ふたたび』も刊行間近で絶好調の痛快活劇小説です!

有川浩さんといえば、ラブコメ。
甘くて甘くて胸焼けがしそうな恋愛話を書かせたら天下一品。
そんな有川さんがもはや恋愛とは縁のなさそうな(失礼)還暦のおっさんたちを主人公にした作品を書いたなんて、ちょっとイメージと合わなくて最初は少しびっくりしましたが、読んでみればやっぱりどんな題材を選んでも有川さんは有川さんでした。


先に書いた通り、主人公は還暦を迎えたおっさん3人組。
かつては「三匹の悪ガキ」として街を騒がせていた幼なじみでもあります。
そんな3人が、それぞれ第一線を退いたことから時間に余裕ができるのですが、今時の還暦はまだまだ「年寄り」には程遠いのです。
暇も元気も持て余した3人が思いついたのは、自警団を結成し、密かに街の平和を守ること。
「悪ガキ」だった3人組が、今度は「三匹のおっさん」という正義のヒーロー(!?)として大活躍します。


先日読んだ加納朋子さんの『七人の敵がいる』は、闘うワーキングマザーの物語でした。
今度は戦うおっさんの話。
しかも本物の肉弾戦含む、です。
この2つのたたかいの物語に共通するのは、今の世相を見事に描き出しているということだと思います。
『三匹のおっさん』の主人公トリオがそうであるように、いまや還暦なんて「高齢者」には含まれません。
現役でバリバリ働いている人もいますし、趣味に打ち込んで毎日生き生きと楽しく過ごしている人もいます。
人生80年だとしたら、まだあと20年も人生を謳歌できるのです。
晩婚化が進んだ結果、まだ子どもが成人していないというケースもあるでしょうし、数十歳も歳の離れた若い人と結婚するという話も、芸能界を中心に珍しくもなくなってきました。
そもそも、たとえ本人が年寄りらしく隠居したいと望んでも、国がそれを許してくれません。
還暦くらいで高齢者扱いしていたら、今の福祉や社会保障の制度は維持できないでしょう。
三匹のおっさんたちのように、還暦を迎えても年寄り扱いされたくないし、まだまだ何か社会の役に立つことをしたいと思うのは当たり前のことだと思います。


そんな現代の日本において、この三匹のおっさんたちは、さしずめ還暦の希望の星というところでしょうか。
3人とも現役時代にしっかり働いて培ってきた経験がありますし、仲間や家族に囲まれて(いろいろ問題もありつつも)それなりに楽しく暮らしている。
そして何より3人は健康で頭も回ります。
剣道をやっていた「キヨ」や柔道経験者の「シゲ」は体格も体力も武道の心得も、そこらの若者に負けません。
小柄で一見好々爺に見える「ノリ」は、機械類の扱いや改造ならお手の物で、実は3人の中で一番危険人物でもあります。
そんな彼らが街の治安を脅かす悪者を成敗していく様子は、とても痛快でした。


こんなふうに、高齢者と現役世代の狭間に位置する還暦世代が活躍する場があるというのはとてもいいことですし、還暦世代の経験や知恵を活かしていくことが今の社会には重要なことだと思います。
停滞しているだの沈没していくだの言われる日本を元気にできるのは、還暦世代の活躍ではないかとさえ思いました。
それほどに三匹たちは生き生きとしていて、かっこいいのです。
もちろん小説ですから、少々現実離れした部分もありますが、実際暇と元気を持て余している還暦世代はどの街にも相当数おられるのではないでしょうか。
そうした方々にどう活躍してもらうかを、私たち現役世代が考えていかなければならないんだろうなと思いました。


いくつかの「事件」を扱っているので、誰が犯人(というか黒幕?)かや裏に隠された意図は何かなど、ミステリ的な読み方をすることも可能な作品だと思います。
ただ、私はある章に関しては、冒頭部分だけでオチがほとんど読めてしまいました。
ミステリとして書かれたわけではないのでしょうからいいのかもしれませんが、もう少しひねってもらってもよかったのになぁ…と、そこは少し残念でした。
とはいえ、こんなタイトルと設定でもちゃんとラブコメ要素もありで、有川作品のおいしい部分もしっかり味わえて、お得な1冊でした。
続編も刊行されたようで、さらなる三匹の活躍に期待大です。
☆4つ。