tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『別冊図書館戦争II』有川浩


“タイムマシンがあったらいつに戻りたい?”という話題で盛り上がる休憩中の堂上班。黙々と仕事をしている副隊長の緒形に、郁が無邪気に訊くと、緒形は手を休め、遠くを見つめるように静かに答えた―「…大学の頃、かな」。未来が真っ白だった無垢な時代。年をとるごとに鮮やかさを増す、愛しき日々。平凡な大学生であった緒形は、なぜ本を守る図書隊員となったのか!?過去と未来の恋を鮮やかに描く、シリーズ番外編第2弾。

図書館戦争シリーズもついに最終巻。
登場人物それぞれの恋愛模様を描く番外編の「別冊」2作目は、ベタ甘だった1作目に比べ、ずいぶんビターで切ない味付けでした。


図書特殊部隊(ライブラリー・タスクフォース)の副隊長、緒形が図書隊に入った経緯を描く短編と、堂上や小牧が新人だった頃の様子を描いた短編、そして手塚と柴崎の遠まわりな恋模様が描かれる連作短編3作の計5作の短編が収められています。
緒形副隊長の過去はちょっと意外だったので驚きました。
かなり異色の経歴だけれど、その経歴に至ったきっかけの過去の恋愛話が切なく、本編ではほとんど注目したことのなかった緒形というキャラクターが好きになりました。
堂上と小牧の新人時代は、確かにいろいろやらかしているものの、どことなくかっこよく感じられるのはその後の彼らの成長具合を十分に知っているせいでしょうか。
こういう頼りになる上官の下で働ける郁や手塚がうらやましいです。


でも、今回の目玉はやっぱり手塚と柴崎の話でしょう。
お互いに相手を意識していることは明らかなのに、それぞれの意地っ張りでプライドの高い性格が邪魔をしてなかなか正面から向き合えない2人…。
そんな2人にようやく「きっかけ」が訪れます。
ですが、その「きっかけ」はとてもつらく恐ろしいものでした。
なんだか、もしかして有川さん、柴崎のこと嫌いなんじゃないでしょうね?と穿ってしまうほど、柴崎にとって厳しい事件2連発。
美人なので言い寄ってくる男には不自由しないけれど、実は幸せな恋愛には縁遠いという柴崎。
そんな柴崎に降りかかってくる災難は、同じ女性としてとても不快で、腹立たしいものでした。


有川さんって甘いせりふやシチュエーションなど、女性にとって心がときめくことを描写するのがうまいというのが今までの印象でした。
でもそれだけじゃなく、女性にとって、男性にされたくない、言われたくないこともしっかり押さえていて、的確に描写されるのですね。
だからこそ甘くキュンとする描写がいっそう際立つのだろうなと思いました。
女性作家ならではの視点で描かれているのですから、女性にとっては共感できて当然です。
女性に「あなたは女の気持ちが分かってない」などと言われがちな男性も、ぜひ有川作品で勉強するといいのではないかと思いました(笑)


不快な気持ちになり、ハラハラさせられもしたけれど、最後はちゃんと甘く締めてくれた有川さんに感謝。
どのカップルもそれぞれに春を迎えられそうで、本当によかったです。
シリーズは完結しましたが、これからも図書隊の面々は、笑ったり泣いたりしながら、表現の自由を守るための戦いを続けていくのでしょう。
物語が終わったその後を想像できる物語を読めることは、幸せなことだと思います。
いろいろ考えさせられ、笑ったりキュンとさせられたりした楽しいシリーズでした。
☆4つ。