tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『図書館革命』有川浩


原発テロが発生した。それを受け、著作の内容がテロに酷似しているとされた人気作家・当麻蔵人に、身柄確保をもくろむ良化隊の影が迫る。当麻を護るため、様々な策が講じられるが状況は悪化。郁たち図書隊は一発逆転の秘策を打つことに。しかし、その最中に堂上は重傷を負ってしまう。動謡する郁。そんな彼女に、堂上は任務の遂行を託すのだった―「お前はやれる」。表現の自由、そして恋の結末は!?感動の本編最終巻。

図書館戦争」シリーズ本編最終巻。
表現の自由を守る戦いと、恋の行方にもついに決着が。
…いや、決着がつかなかった部分もありますが。


何と言うか最後までこのシリーズは、作者本人も認めるトンデモ設定にも関わらず、シャレにならないリアリティがあったなぁ、と改めて感心しています。
原子力発電所がテロの標的にされるという状況は、今の日本の状況と照らし合わせると本当にシャレにならない、誰もが恐れる状況で、何年も前に有川さんがその状況を作品の題材に選んでいたこと、そして今文庫化されたことはどちらもただの偶然に過ぎないのでしょうが、その偶然を生み出せるのが物語の持つ力なのかもしれない、と思いました。
上橋菜穂子さんの『天と地の守り人』でも同じようなことを思いましたが。
そして、メディアの「自主規制」によって、表現の自由が脅かされる素地がこの日本にすでに出来上がっていることも否定しようのない現実です。
国民が政治に無関心でいる間に、どさくさまぎれで「メディア良化法」のような事実上の検閲行為を認める法案が通ってしまうことも、決して起こりえない話ではないのです。
そうしたリアリティがあってこそ、トンデモ設定もすんなりと受け入れられるのでしょう。
このシリーズのような社会になってしまうことは絶対にごめんですが。


本編最終巻として、ストーリーの盛り上げ方も素晴らしかったです。
民間人である作家の当麻を警護する図書特殊部隊、堂上が銃撃され負傷しながらの逃亡劇、ひとりきりで当麻を守って大阪へ向かうことになった郁の奮闘…。
ストーリー後半は先が気になってページを繰る手を止められず、一気に読んでしまいました。
特に大阪人としては状況がリアルに想像できるだけに、郁と当麻が大阪に着いてからの話が面白かったです。
そうそう、大阪駅周辺って素人がうっかり車で迷い込んだら地獄だよね、とか、阪神百貨店のおばちゃん店員のコテコテ描写だとか、思わず笑ってしまいました。
と思ったらその直後の、郁と当麻との別れの場面は一転して涙がでてきたりして。
絶体絶命の状況にハラハラしたり、笑ったり、泣いたり…これぞエンターテインメント!と言わんばかりの山あり谷ありのストーリー展開に、大いに満足しました。


もちろん目玉?のベタ甘恋愛話も絶妙のタイミングで挟み込まれてきて、存分にニヤニヤさせてくれます。
冒頭の郁と堂上の初デート!?の場面も好きだし、柴崎と手塚が携帯を交換する時のやり取りもいいし、小牧と毬江ちゃんが着実に関係を進展させていっているのもうれしいし、そして最後の郁と堂上の関係の決着ももちろん、ついでにボーナストラックの短編「プリティ・ドリンカー」も素晴らしい甘さ。
やっぱり柴崎と手塚の組み合わせが好きですね、私は。
郁と堂上や小牧と毬江の組み合わせは王道だけど、柴崎と手塚はちょっと変化球っぽくて、それがいいです。
スピンオフの『別冊図書館戦争』2作はさらにベタ甘らしいので楽しみです。
これで終わりじゃ物足りないという読者の思いに応えてくれることでしょう。


表現の自由の問題に鋭く切り込んだ社会派の一面と、アクション満載の戦闘ものの一面と、ベタ甘ラブコメの一面とを併せ持った、欲張りなエンターテインメント作品でした。
読んでいてとても楽しかったです。
☆5つ。
ところで有川さ〜ん、いや角川の編集者&校正者さ〜ん、御堂筋線「本町」駅の読み仮名は「ほんまち」が正しいんですけど〜!