- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2010/08/05
- メディア: 文庫
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「面白きことは良きことなり!」が口癖の矢三郎は、狸の名門・下鴨家の三男。宿敵・夷川家が幅を利かせる京都の街を、一族の誇りをかけて、兄弟たちと駆け廻る。が、家族はみんなへなちょこで、ライバル狸は底意地悪く、矢三郎が慕う天狗は落ちぶれて人間の美女にうつつをぬかす。世紀の大騒動を、ふわふわの愛で包む、傑作・毛玉ファンタジー。
いや〜、やっぱり森見登美彦さんの作品は面白い!
特にこの作品は私にとってツボと言える要素が詰まっていました。
主人公の下鴨矢三郎は、下鴨神社の糺の森に住まう狸一族の下鴨家の三男。
偉大な父の阿呆なところだけを引き継いだといわれる矢三郎の前には、神通力を失ってすっかり落ちぶれた天狗の「赤玉先生」や、人間なのに天狗に弟子入りして半天狗となった美女「弁天」、下鴨家の宿敵・夷川家の阿呆な兄弟狸「金閣」「銀閣」ら、一癖も二癖もある人々…じゃなくて生物(?)たちが立ちはだかる。
下鴨家と夷川家の戦いの行く末は…?
狸と天狗と人間が京都を舞台に巻き起こす騒動の数々が、いつもの森見節とも言える独特の文体で面白おかしく綴られています。
実在の都市を舞台にここまで奇想天外なファンタジーが違和感なく成立してしまうのが何とも言えず可笑しくて笑ってしまいます。
これはやはり京都だから、なのでしょうねぇ。
人間に化けた狸や天狗が街中をうろうろしているという光景がごく当然のことのように描かれていて、京都ならありえるかもしれないと思わせられるのです。
隣の街であっても大阪ではこうは行きません。
やはり長い歴史を持ち、独特の風情と文化のある古都だからこそ、でしょう。
そういえば私が通っていた大学も京都市内にありましたが、狸の一家が学内に住み着いていて、どこぞのサークルが餌付けに成功したとかいう話があったなぁ、なんて思い出しました。
下鴨神社、出町柳、木屋町、先斗町、寺町通などなど、京都の地名や名所を知っていればより楽しめること間違いなしの、現実の京都という街と、狸と天狗が繰り広げるファンタジーが見事に融合した作品です。
もちろん舞台設定だけでなく、ストーリーも楽しめました。
宿敵同士の下鴨家と夷川家の戦いという図式は、オーソドックスな設定なので非常に分かりやすく、物語に入っていきやすいです。
そして、この作品は下鴨家の家族愛を描いた作品でもあります。
基本的に狸は阿呆とのことで、下鴨家の4兄弟たちもどうしようもない阿呆たちとして描かれていますが、阿呆でも一家の絆は強く、なかなか感動的な部分もありました。
化け術を駆使して人間に化けたり偽叡山電車に化けたり、人間に狸鍋にされることを恐れたり、天狗に教えを請うたり、叶わぬ恋をしてみたり…。
なんとも愛すべき可愛らしい狸たちで、読み進めるうちにすっかり狸に感情移入してしまい、最後にはきっと狸好きになっていること間違いなしです。
『夜は短し歩けよ乙女』の荒唐無稽な青春物語も面白かったですが、狸や天狗といった人外の世界もまたよし。
森見さんが次はどんな世界を描き出してくれるのか、今後も目が離せません。
☆5つ。