tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『シモネッタのデカメロン イタリア的恋愛のススメ』田丸公美子


巨漢の50代イタリア人男性が、日本出張のたびに、女性のお持ち帰りに成功する理由とは。通訳歴30余年、アモーレ(愛)の国イタリアで、著者が見聞したおかしな夫婦や恋人たちのエピソードが満載。愛の向こう側に豊かな文化が見えてくる、人生を楽しむヒントに満ちた大人のエッセイ集。解説にかえて故米原万里さんとの対談収録。

今年の初めに著作を読んで感銘を受けた、ロシア語通訳の米原万里さんの大親友が、このイタリア語通訳の田丸公美子さん。
派手で鮮やかな色合いの服や毛皮のコートを好んで身につけ、胸はFカップだというからこの田丸さんも日本人離れした個性豊かな方(通訳者はなぜか派手で個性の強い人が多いんですよね…それと比べると翻訳者はものすごく地味)だと想像しますが、そういう人が30年間の通訳生活で見聞きした体験を語るとやっぱり面白いのです。


田丸さんいわく、「イタリア人は世界一の好き者」。
書名にある「シモネッタ」は絶妙なタイミングで下ネタを繰り出してくる田丸さんに米原万里さんがつけたあだ名なのですが、この本には田丸さんが「シモネッタ」となる土台を作り上げた、イタリア人たちの下ネタ話が満載です。
後半には少し田丸さん自身の通訳業裏話なども入ってきますが、基本的には1冊丸ごと下ネタオンパレード。
かなりきわどい話もあるのに、下品ではなく、カラッと笑い飛ばしながら軽く読めるので、女性の方にもためらうことなくおすすめできます。
特に女性を大切に扱い、大げさなほどに女性たちを褒め称え情熱的に口説くイタリア人男性たちの姿には「いいなぁ…」とため息混じりに思うこと間違いなし。
「イタリアではセクハラをしないことがセクハラ」だという一節には思わず笑ってしまいました。
日本で男性が職場の同僚の女性に「今日の口紅は似合っているね。綺麗だよ」なんて言ったら間違いなくセクハラですが、イタリアでは逆に女性を見たら誰であろうととにかくその美しさや色っぽさを褒めて褒めて褒めまくらなければならないのだそうです。
「結婚しようよ」もイタリアの男性にとっては朝の挨拶のようなもの。
イタリアに限らず欧米の男性から見ると日本の女性は「簡単に落ちる」そうですが、そりゃ〜だって、日本人女性は誰も褒められたり口説かれたりすることに慣れていないんだもの。
生まれて初めての経験にポーッとなってしまってもしょうがないんですっ!!
何でも韓国人男性もイタリア人男性に負けず劣らず押しが強くて情熱的だそうですよ。
日本の中高年女性の間で韓流が大ブームとなった理由がよく分かるような気がします。
また、男の悪い遊びと言えば日本語では「飲む・打つ・買う」ですが、イタリア語にもこれと同じ常套句があり、「買う」に相当する部分は「ヴェーネレ」(英語のヴィーナスと同じ)というのだそうです。
この差は何!?
「買う」だなんて、日本の男は情緒がないどころか、女性を対等な存在だとすら思っちゃいない。
田丸さんも本書で指摘されている通り、日本人男性だって平安時代の和歌の交換による愛情表現や通い婚に見られるように、情熱的で情緒あふれる民族だったはずなのに、どこで歯車が狂ってしまったのでしょう。
やっぱり原因は封建的な武家文化にあるのでしょうか。
同じ日本人として、「日本人男性はストイックなサムライの精神を持っているんだ」と肩を持ってあげたいけれど、"hentai"が国際語として通用する(美少女モノのアニメ、マンガ、ゲーム、フィギュアなどを指す)このご時勢、世界中から「どこがストイックなサムライだ!!」と総ツッコミを受けてしまいそうです。
このグローバル時代においていまや恋愛市場も国際化しつつあり、このままでは日本人男性は世界からとり残されてしまうのでは…と本書を読んでやおら心配になってしまった私です。
世界中の女性と恋愛したいと思う日本人男性は、本書を読んでイタリア人男性の女性への接し方を学んでみるのもよいかもしれません。
…個人的には「女性と見ればとにかく口説く」八方美人なイタリア人男性の性癖を良しとは思いませんけれど(笑)


そんな、ちょっと下世話で笑える軽い話が中心の本書でしたが、巻末の文庫版あとがきには泣かされてしまいました。
通訳現場という同じ戦場で戦った戦友であり、大親友であった米原万里さんとの最後の1年について綴られています。
本文の軽いタッチとは異なる、悲しみと寂しさが滲んだ文章に胸を打たれました。
こちらのサイト(通訳ソーウツ日記:スペースアルク)にも亡き米原さんへの思いを綴った文章がありますが、こちらも泣かせます。
米原さんの死後、下ネタも出てこなくなり、笑うこともめっきり少なくなったという田丸さんが、長い通訳生活の中で見聞きした下ネタをあくまでも上品な文章で再び読者に披露してくれる日を、私はいつまでも待っています。
☆4つ。