tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『インストール』綿矢りさ

インストール (河出文庫)

インストール (河出文庫)


突然、学校生活から脱落することを決めた高校生・朝子。
ゴミ捨て場で知り合ったクールな小学生かずよしに誘われて、チャット風俗で一儲けすることに。
押入れのコンピューターから覗いた「オトナの世界」とは?
文芸賞受賞作。

普段「小説」しか読まない私は「純文学」に苦手意識を持っているのですが、この作品は非常に読みやすかったです。
奇をてらわないストーリー展開と、リズムや流れのよい、若者らしい勢いもある文体のおかげでしょうね。
でもこの文体誰かの文体に似ているような気がするんだけど…誰の影響を受けてるのかなぁ。
あまり文学作品を読まないから分からない(-_-;)
でも、文章は上手いし、非常にとっつきやすい作品だと思うのですが、特に惹きつけられるようなところもないような気がします。
この作品が発表された当時(2001年)こそまだ真新しい題材だったのかもしれませんが、ここまでブロードバンド化が進んだ今となってはコンピュータもチャットもありふれすぎていて、なんだかどっかで聞いたことあるような話だなぁ、としか思えない。
結局は「2001年に」「17歳の現役女子高生が」この作品を書いたからこそ意味があったんだろうなと思いました。
物語としても動きが少ないので面白みには欠けますね。
いや、文学作品に面白みを求める方が間違ってるのか(^_^;)
やっぱり私、文学は苦手かも〜…。
大体純文学って性もしくは暴力なしには書けないのでしょうか(しかもやたらエグかったりするんですよね)
村上春樹さんとか、村上龍さんとか…(おっと、「村上」ばっかりだ)
そういうの嫌いなんだってば、苦手なんだってば。
綿矢りささんはエグくはないし、むしろ題材のわりにはさわやかなんですが、それだったらあえて「風俗チャット」を題材にしなくてもよかったんじゃないのか?と…(う〜ん、やっぱり私、文学に向いてないなぁ)


その点、この文庫に書き下ろしの新作「You can keep it.」は正統派の青春小説という感じがして好きです。
文学っぽくないともいえるかもしれませんが。
「インストール」の流れるような文体ではなくなってしまっているのは、綿矢さんの持ち味が失われているようで、ちょっと残念な感じもしました。
この作品については、先日新聞に綿矢さんのインタビューが出ていました。
彼女がアメリカに語学研修に行った際に、"You can keep it."(それあげるよ)という言葉を聞いて、日本語との視点の違い(日本語では主語は「私」、英語では"you")に興味を持ったところから着想した作品なのだそうです。
目のつけどころがいいなぁと感心しました。
言語センスのある人なんでしょうね。
そのセンスが文章力や表現力につながっているのでしょうし、まだ若いですからこれからどんどん伸びる作家さんではないかと思います。
今回は☆3つということで、今後に期待。


それにしてもこんな隙間の多い本、読んだ気がしない…(^_^;)
もっと文字がぎっしり埋まってる本のほうが私は好きだわ。