tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『眠りの森』東野圭吾

眠りの森 (講談社文庫)

眠りの森 (講談社文庫)


美貌のバレリーナが男を殺したのは、ほんとうに正当防衛だったのか?
完璧な踊りを求めて一途にけいこに励む高柳バレエ団のプリマたち。
美女たちの世界に迷い込んだ男は死体になっていた。
若き敏腕刑事・加賀恭一郎は浅岡未緒に魅かれ、事件の真相に肉迫する。
華やかな舞台の裏の哀しいダンサーの悲恋物語

先日は『忘れ雪』の「純愛小説」という触れ込みに騙されたので(根に持ってる?)、お口直しのために好きな作家さんの作品を読むことにしました。
ああ、まだ読めていない本があるって素晴らしい…(笑)
いやでも、これは本当に読んで正解だったと思います。
これを「純愛」と呼ばずして何を「純愛」と呼ぶのでしょう。
美しく、はかなく、切なく、悲しい恋物語です。


主人公の加賀刑事は、東野さんの初期作品である『卒業―雪月花殺人ゲーム』に登場して以来、東野作品ではおなじみの探偵役となっています。
『卒業』は、加賀が大学生の時の話でした。
この『眠りの森』が加賀刑事シリーズ第2弾に当たるのですが、加賀は大学卒業後教師になるものの辞職し、警察官に転職して父と同じ刑事の道を歩むことになったのでした。
同じ登場人物を用いたシリーズ物で気になるのは、やはり人物の過去や未来がどうだったのか/どうなるのかといったことですね。
加賀の場合、「生徒たちのためを思ってしたことが、生徒にとってはためにならなかった」と自嘲気味に語る加賀の教師時代がどんなものだったのかがとても気になります。
『卒業』ではあれだけ刑事になることを嫌がっていた加賀が、教師を辞して刑事になるきっかけとなったものはなんだったのでしょうか。
ぜひ東野さんに書いていただきたいものです。


そして、この作品のラストは、非常に続きが気になる終わり方をしています。
加賀は刑事。
彼が惹かれたバレリーナ・未緒は殺人事件の関係者。
非常に成就が困難な恋だと思います。
もしかしたら「禁断の恋」と言ってしまってもいいかもしれない。
刑事という職業は危険なものですし、一旦事件が起こってしまえば生活も不規則になります。
恋愛はしづらい職業かもしれません。
でも、刑事だからこそ守れるものがあるはず。
加賀も気付いているように、ね。
恋をしても自分の職務をきちんとまっとうし、事件を解決する加賀はプロ意識が高いと言うか、かっこいいなぁと思います。
うん、やっぱり恋におぼれて仕事を辞めるような男はダメだってば(やっぱり根に持っている・笑)
また、ヒロインの未緒が加賀が恋に落ちるにふさわしく、とても心がきれいで、素敵な女性なんですよね〜。
そのはかなげな印象は、加賀が「守りたい」と思うのも当然でしょう。
ぜひ2人には幸せになって欲しいものですが…。


恋愛部分についてばかり書きましたが、ミステリ部分もいいですよ。
派手さはないけれど、どんでん返しの結末は予想外でした。
バレエ団というちょっと特殊な業界を舞台にしているのもいいですね。
思わずバレエを見てみたくなってしまいました。
☆の数は、4つで。