tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

2019年1月の注目文庫化情報


遅くなりましたが、あけましておめでとうございます。
今年も読書を楽しんで、ここに感想を上げていきたいと思っていますのでどうぞよろしくお願いします。


今月はRDGシリーズの最新作が登場ですね。
最終巻を読んでからしばらく経ってからの後日談、これは楽しみです。
天童荒太さんも久しぶりに読みたいし、芥川賞候補に挙がって話題になった今村夏子さんも気になりますね。
とはいえまずは現在の積読を片付けなくては――と去年から進歩のないことを言っていますが、少しずつ確実に読み進めていきたいです。
今年もたくさんの良い本との出会いがありますように。

『3月のライオン (14)』羽海野チカ


夏まつり以降、急接近したあかりと島田と林田。不思議な3人の関係は時にすれ違い、時に重なり合いながら三月町や川本家を舞台に周囲の人々も巻き込んでいく。そして秋も深まる頃、零にとって最後となる駒橋高校の文化祭を迎えるが、奇しくも同じ日に開催される職団戦の会場に零はいた。クラスの出し物に奮闘するひなたと立会人を務める零。それぞれの場でそれぞれの思いを抱えながら過ごす秋の一日が始まる──。

10巻以前くらいまでの、棋士たちの熱い戦いの話から一転して、現在は恋愛メインのストーリーになっているせいか、ほんわかあったかい雰囲気が強調されている感じです。
あかりさん、島田八段、林田先生の三角関係 (と言ってしまっていいのかすら微妙なところですが……) が多少は前進するのかと思いきや全然前進してなさそうなのがもどかしいですね。
このもどかしさ、どこかで読んだぞ……と思いきや、そう、『ハチミツとクローバー』じゃないですか。
そのハチクロの一部の登場人物が、この巻に登場しています。
ハチクロの人物が出てくるということだけは読む前から知っていたのですが、カメオ出演程度かと思っていたら、けっこうしっかりハチクロの後日談的なエピソードが描かれているのでちょっと驚きました。
個人的には懐かしくてうれしかったけれど、『3月のライオン』の読者が全員ハチクロを読んでいるわけでもないだろうし、ここまで『3月のライオン』の物語の中に組み込んでしまうのはどうなのかな、と思わなくもなかったり。
この辺りのさじ加減は難しいところですね。


駒橋高校の文化祭の話は、とにかくひなちゃんがかわいかったですね。
零くんは幸せ者だと思います。
ただ、ひなちゃんが幼すぎるというか、これまた恋愛関係に発展するにはまだまだ時間がかかりそうなところが、やっぱりもどかしい。
脈がないわけではないようなので、零くんには気長に、根気よくひなちゃんのそばにい続けてほしいなと思います。
しかしそうなるとこの作品、いつまでも終わらないのでは?という気がしなくもないですが、その点は羽海野さんのことだから、どこかで急展開がありそうで、今からドキドキです。
ハチクロもスローペースな話だと思っていたら急激に展開が変わりましたからね。
読者は覚悟しておいた方がよさそうです。


ところで今巻で一番うれしかったのは、監修の先崎学さんのコラムが復活していたことでした。
うつ病で休業されていたと知った時にはびっくりしましたが、コラムも毎回楽しみに読んでいた身としては、とにかく無事に帰ってこられてとてもうれしく思いました。
マンガ本編が恋愛ストーリー寄りになって将棋の話が少なくなっているのも、先崎九段がお休みされていた影響もあるのではないかと思うので、この先また熱い棋士たちの戦いもたくさん読めることを期待しています。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp

『ボクたちはみんな大人になれなかった』燃え殻

ボクたちはみんな大人になれなかった (新潮文庫)

ボクたちはみんな大人になれなかった (新潮文庫)


それは人生でたった一人、ボクが自分より好きになったひとの名前だ。気が付けば親指は友達リクエストを送信していて、90年代の渋谷でふたりぼっち、世界の終わりへのカウントダウンを聴いた日々が甦る。彼女だけがボクのことを認めてくれた。本当に大好きだった。過去と現在を SNS がつなぐ、切なさ新時代の大人泣きラブ・ストーリーあいみょん、相澤いくえによるエッセイ&漫画を収録。

ツイッターで話題になっていたので気になって読んでみました。
作者の燃え殻さん自身が「アルファツイッタラー」と呼ばれる、ツイッター界では有名で人気のある人なんですね。
私はご本人のツイッターはフォローしておらず、この作品で初めて燃え殻さんの文章に触れました。


主人公の「ボク」は専門学校を卒業後にエクレア工場でアルバイトをしている時に、アルバイト情報誌の文通コーナーを通して知り合った女性と付き合い始めます。
その後、エクレア工場を辞めてテレビのテロップを作成する会社で働き始め、多忙を極めるようになってからも付き合いは続きますが、ある日突然その関係は終わりを迎えます。
そんな切ない恋の思い出を、40代になった「ボク」がフェイスブックで彼女の名前を見つけたことをきっかけに振り返る、という物語です。
燃え殻さん自身がテレビ美術制作会社に勤めていて、年齢的にも「ボク」と同じのようなので、私小説に近いのかもしれません。
少なくともテレビのテロップや小道具などを制作する会社の業務については、創作とは思えないリアリティをもって描かれていました。
テレビがまだ娯楽の中心だった頃の業界の様子が非常に興味深かったです。


テレビ業界の話だけではなく、フリッパーズ・ギターオリジナル・ラブなどの音楽の話、聖闘士星矢うる星やつらなどのアニメの話など、時代を彩ったサブカルチャーの話題もたくさん登場します。
おそらく作者と同じくらいの世代の人ならとても懐かしく感じられるとともに、当時の時代の空気感をありありと思い出せるのではないでしょうか。
私は作者よりも少し年下で、そうした思い出に関して共有できる部分はほとんどありませんでした。
ただ、だからといってこの作品自体に共感できないかというと、そんなことはありません。
実際、歌手のあいみょんさんや漫画家の相澤いくえさんが寄稿しているように、作者よりずっと年下の若い世代からも支持され、共感されているようです。
それはやはり、過ぎ去った恋の記憶を思い起こす時の胸の痛みや切なさといったものは、どんな時代のどんな世代の人にも共通するものだからなのでしょう。
恋人に限らず、友人や仕事仲間など、人間生きていればいくつもの出会いと別れを繰り返していくものです。
そうした普遍的なものを描いているからこそ、この作品は大きな支持を得たのだと思います。


昔の話ばかりではなく、現代を描いているパートもあって、フェイスブックツイッター、ラインといったコミュニケーションツールも登場し、「今」を感じさせる作品でもあります。
ただ、何人か登場する女性について、あまり名前に触れられず全部「彼女」と言及されていることが多く、時系列がたびたび前後することもあって、この「彼女」はどの「彼女」なのかと多少混乱するという難点もありました。
よく読めば時代背景的な描写からどの「彼女」かは特定できるのですが、少々わかりにくいのは否めません。
そのことを除けば、全部スマホで書かれたとは思えないほどしっかりした描写力のある文章で、時代の移り変わりと切ない恋の記憶が短い中に凝縮された印象的な作品でした。
☆4つ。