tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『Wonderful Story』

Wonderful Story(ワンダフルストーリー) (PHP文芸文庫)

Wonderful Story(ワンダフルストーリー) (PHP文芸文庫)


伊坂幸太郎大崎梢木下半太・横関大・貫井徳郎―当代きっての人気作家5人が、「犬」にちなんだペンネームに改名(!?)して夢の競演。昔話でおなじみの犬の思わぬ裏話や、「犬吠埼」で繰り広げられる物語、悪人が連れてきた犬や、人のために働く盲導犬の抱える秘密、そしてやたらと見つめてくる犬の謎とは…。個性豊かな犬たちが踊る、感動ありサプライズありの前代未聞の小説“ワンソロジー”、ここに登場!

先日猫がテーマのアンソロジーを読み、なかなか面白かったのですが、私は実は猫よりも犬の方が好き。
ということで、犬のアンソロジーが出たと聞けばそれは読まないわけにはいかないでしょう。
このアンソロジー、執筆作家の名前の一部を「犬」に変えたペンネームにしたという面白い遊びも盛り込まれています。
こういういい意味で「くだらない」お遊びは好きです。
収録作品もそんな遊び心あふれる作品が揃っているのかと思いきや、そこはさすが人気作家のみなさん、真面目に取り組んだというか、それぞれの作家さんの持ち味が出ていました。
それでは各作品の感想を。


「イヌゲンソーゴ」伊坂幸犬郎 (伊坂幸太郎)
何だか聞いたことあるようなお話をあれこれくっつけた、ユーモアあふれる物語で、とても伊坂さんらしいなと思いました。
よくよく考えてみると犬自身が主人公として登場するのは、収録作の中で本作だけなんですね。
以前車を語り手にした作品も書いている伊坂さん、犬が語り手でも読者をしっかり惹きつけ、感情移入させてくれます。
登場する犬たちの個性も豊かで、犬好きならきっとひとり……じゃなかった、1匹くらいは「私はこの子が好き!」といえるような登場犬がいるはず。
私は最後の方に出てくる黒のラブラドール君が好きです。


「海に吠える」犬崎梢 (大崎梢)
犬吠埼という、「犬」が入った地名の場所を舞台にしたところに作者のこだわりが感じられます。
それもちゃんと現地に取材に行かれたというだけあって、漁師町の雰囲気がよく伝わってきて、展望館や灯台、マリンパーク (水族館) に醤油工場などの作中に登場する施設に行ってみたくなりました。
犬吠埼という地名の由来になったという義経の愛犬の伝説についても触れられており、とても興味を引かれました。
話としては、家族の危機に直面した少年の成長物語で、さわやかな読後感がよかったです。


「バター好きのヘミングウェイ」木下半犬 (木下半太)
美人の人妻がダメ夫の借金返済を待ってくれるよう、どぎつい関西弁の悪そうな男に会いに行くという話です。
いきなり大ピンチな状況にハラハラしましたが、この奥さんがなかなか度胸が据わっている上に頭のよい人で、男が連れてきた犬を見てあることに気付き、ピンチを脱出するという展開になんだかすっきりした気分になりました。
その後の展開もなかなか痛快です。
木下半太さんの作品は初めて読みましたが、緩急のあるストーリー展開でとても読みやすかったです。


「パピーウォーカー」横関犬 (横関大)
パピーウォーカーとは盲導犬候補の仔犬を育てるボランティアのこと。
盲導犬訓練施設で訓練士を目指す女性を主人公に、先輩訓練士や、盲導犬ユーザー、元パピーウォーカーの一家といった、盲導犬にまつわる人々が登場するミステリです。
盲導犬好き、ミステリ好きの私にはたまらない組み合わせのお話でした。
謎解き役である先輩訓練士のあまりのコミュニケーション下手には主人公の女性研修生と一緒にイライラしてしまいましたが、しっかりミステリしていてストーリーとしては大変好みでした。
横関大さんも初めての作家さんでしたが、江戸川乱歩賞出身というのに納得。
他の作品も読んでみたいです。


「犬は見ている」貫井ドッグ郎 (貫井徳郎)
ペンネームのインパクトは貫井さんが一番ですね、「ドッグ郎」って……思わず笑ってしまいました。
行く先々で、犬の視線を感じるという、ちょっとオカルトっぽい話です。
ラストの背筋がぞわっとする感覚がなんとも言えません。
貫井さんはこういうオチのつけ方が巧いなと改めて思いました。
しかし、犬好きが読むであろうアンソロジーで、あえて犬をオカルト的に使う短編を持ってくるとは、なかなか大胆だなぁと感心もさせられました。
この媚びない姿勢が貫井さんらしいとも言えるかもしれません。


ベスト作品を選ぶなら「パピーウォーカー」でしょうか。
といっても単純に自分の好みの題材だったからというだけで、他の作品も甲乙つけがたい佳作ばかりでした。
犬好きな人はもちろん、そうでない人にもお薦めできる、気楽に読めるアンソロジーです。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp

『まほろ駅前狂騒曲』三浦しをん


まほろ市は東京都南西部最大の町。駅前で便利屋を営む多田と、居候になって丸二年がたつ行天。四歳の女の子「はる」を預かることになった二人は、無農薬野菜を生産販売する謎の団体の沢村、まほろの裏社会を仕切る星、おなじみの岡老人たちにより、前代未聞の大騒動に巻き込まれる!まほろシリーズ完結篇。

直木賞受賞作『まほろ駅前多田便利軒』から始まる「まほろ」シリーズの完結編がついに文庫で登場しました。
1作目を読んだのはもう8年も前、2作目でも5年前、とかなり時間が経っていますが、細かいところは忘れていても、読み始めるとたちまち物語の世界に引き込まれ、おなじみの登場人物たちのこともどんどん思い出されてくるのは、本シリーズが優れた作品である証だと思います。


東京のベッドタウンであるまほろ市で便利屋を営む多田と、ある日転がり込んできて居候になった多田の高校の同級生である行天。
このふたりの関係がやはりいいですね。
高校の同級生といっても、高校時代特に仲良くしていたわけでもなく (かなり印象的な思い出はありますが)、卒業後かなり経ってから再会するまで付き合いもなかったふたりならではの、近すぎず遠すぎない距離感が心地よいのです。
一緒に便利屋の仕事をしているといっても、行天はさぼり気味なため、「同僚」というのも「上司と部下」というのもしっくりきません。
あえていうなら「相棒」くらいが一番ふたりの関係を表す言葉にふさわしいでしょうか。
そんなふたりの前に現れるまほろ市民たちが、これまたみな個性的で楽しいです。
駅裏の路上に立つ娼婦コンビに、バスが間引き運転をしているという疑惑を持つ老人などはシリーズレギュラーですが、なんとも強烈なキャラクターです。
今回は娼婦コンビは出番が少ないですが、老人の方はある意味大活躍。
物語終盤には大騒動を引き起こす張本人となります。
なかなか迷惑な爺さんだと思うのですが、根は悪い人じゃないということもしっかり描かれているので、次は何をやらかすのかとハラハラしながらも憎めないのです。
このシリーズに登場するのは、基本的にはそういう「ちょっと変だったり厄介だったりするけれど、根っからの悪人ではない」という人物ばかりで、とても気持ちよく読めます。


さて、今作では多田が4歳の女の子「はるちゃん」を預かることになりますが、この子はなんと行天の遺伝子上の実子です。
けれども行天はちょっと病的なほどの子ども嫌いで、はるちゃんも例外ではなく断固拒否します。
はるちゃんに対する態度は大人げないとも言えるほどで、小さい子どもをこんなにも毛嫌いするのにはきっと深いわけがあるのだろう、というのは察せられますが、やがて明らかになる行天の過去には胸が痛み、腹も立ちました。
そんな行天にとって、さらには読者にとっても救いとなるのは、やはり多田の存在です。
行天は本人が恐れているような、子どもにひどいことをするような人間ではないということを、少々荒っぽいやり方で行天に教えようとする多田の思いやりに泣かされました。
その結果、少しずつではありますが恐る恐るはるちゃんと距離を縮めていく行天の姿にも泣かされます。
破天荒なところは相変わらずですが、行天が確実に過去の呪縛から解放されて成長を見せるところにホッとしました。
そのきっかけを作るのが、自身も子どもに関しては苦くつらい過去を持つ多田だというのがいいですね。
多田自身もはるちゃんの存在には間違いなく救われています。
この、はるちゃんをきっかけに多田や行天の過去がクローズアップされる部分は非常に重くて、ともすれば物語が暗いトーンになってしまいそうでもあるのですが、絶妙なタイミングでユーモアや笑いが差し挟まれて救われます。
重すぎず、軽すぎない。
このバランスの良さのおかげで、500ページを超える長さでも全くだれることなく楽しく読めました。


多田には恋の進展もあったりして、シリーズ完結編として申し分ない面白さでした。
最後に収録されている番外編短編もよかったし、非常に満足でき、心に残るシリーズとなりました。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp
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11月の注目文庫化情報


だいぶ寒くなってきましたね。
今年もあと2か月と思うとなんだか焦りますが、読書は変わらずマイペースで進めたいものです。


今月の注目新刊は少なめ。
でもどれも読むのを楽しみにしてきた作品なので、うれしいです。
といっても、今のペースだとこれらを読めるのはもしかして年明けかも……。
まぁ、先の楽しみが用意されているというのはうれしいことですよね。
そろそろ年末恒例のランキングの話題もちらほら出てきていますが、今年はあと何冊読めるかな。
あと2か月弱で、面白い本との出会いがありますように!