tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『ナイフをひねれば』アンソニー・ホロヴィッツ / 山田蘭 (訳)


「われわれの契約は、これで終わりだ」探偵ホーソーンに、彼が主人公のミステリを書くのに耐えかねて、わたし、作家のホロヴィッツはこう告げた。その翌週、ロンドンで脚本を手がけた戯曲の公演が始まる。いきなり酷評する劇評を目にして意気消沈するわたし。ところがその劇評家が殺害されてしまう。凶器はあろうことかわたしの短剣。逮捕されたわたしには分かっていた。自分を救えるのは、あの男だけだと。〈ホーソーンホロヴィッツ〉シリーズの新たな傑作登場!

年末のミステリランキングで完全に常連になったアンソニーホロヴィッツの代表作「ホーソーンホロヴィッツ」シリーズの4作目です。
全然クオリティが落ちることなく進化していっているのがこのシリーズのすごいところ。
最後まで読んだら、あれもこれも真相に至る手がかりは全部きっちり書いてあった!と驚き感嘆させられるのも毎回同じです。
今作も存分にそのフェアな謎解きを堪能しました。


このシリーズ、ホロヴィッツがひどい目に遭うというのも読みどころのひとつであるような気がします。
これまでもなかなか危険なひどい目に遭ってきたホロヴィッツですが、今回はなんと殺人事件の容疑者として逮捕されてしまいました。
しかもその事件とは、自分が脚本を手がけた戯曲の公演がある劇評家によって酷評されて落ち込んだ翌日に、まさにその劇評家が殺されてしまったというもの。
凶器には公演の関係者に記念品として配られた短剣が使用されており、その短剣からはホロヴィッツの指紋が検出されます。
さらには被害者が着ていたブラウスにホロヴィッツの髪の毛が付着していて、事件現場の近くの防犯カメラにはホロヴィッツと同じ服装の人物が映っている――と、ホロヴィッツが犯人であるとしか思えない事実が続々明らかになるのです。
どんどん窮地に追い込まれるホロヴィッツが気の毒……なのはもちろんですが、同時になんだか笑えてしまうのも事実。
本作は作者=作中のホロヴィッツという体裁で書かれており、ホロヴィッツの嘆きはもちろん悲壮ではありますが、自分のことだからなのか面白おかしく描こうというユーモア精神も感じられます。
一体ホロヴィッツはどうなってしまうのかというハラハラドキドキ感も多少ありつつ、全体的にはユーモラスな雰囲気で、そのバランスが絶妙で楽しかったです。


そしてそんなホロヴィッツのピンチを救うのはやっぱりホーソーン
物語冒頭ではいきなり険悪な雰囲気になっているふたりにハラハラさせられましたが、なんだかんだでそれなりの絆が育っているのも確かです。
ホーソーンが警察の留置場に現れる場面ではホッとしましたが、その後留置場から出たホロヴィッツを休む間もなく関係者への事情聴取に引っ張りまわす辺りは容赦がなくて、文句たらたらのホロヴィッツの姿がやっぱり可笑しい。
でも笑っている場合ではないのです、事件の真相への手がかりがたっぷりと、巧妙に本文中に散りばめられているのだから。
そう、本作でもすべての手がかりは本文中に必ず書かれている、というこのシリーズの鉄則は変わりません。
相変わらずのフェアプレイと伏線の妙にうならずにはいられませんでした。
毎回同じことをやっている、と言えばそれまでだけれど、毎回同じことを読者が満足できるレベルでやり続けるというのはそうそう簡単に誰でもできることではないでしょう。
読者の期待感はシリーズが進むにつれて上がっていくものです。
私自身もだんだん注意深くなって、気をつけて物語を追っているはずなのに、それでもやっぱりホーソーンのようには真相にたどり着けない。
シンプルでありながら説得力満点の謎解きに、今回も痺れるばかりでした。


ホーソーンの謎もシリーズが進むにつれて少しずつ明かされていっていますが、今回は彼の家族の話に興味をそそられました。
大ピンチの真っ只中だというのに、ホーソーンの家で彼のプライベートを知りたいという欲求が全開になるホロヴィッツもまた面白かったです。
戯曲に対する作者自身の熱い想いが綴られている場面もあり、読みどころが多い物語にどっぷり浸かってとても満たされました。
早く続編が読みたいです。
☆5つ。




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