tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『medium 霊媒探偵城塚翡翠』相沢沙呼


死者が視える霊媒・城塚翡翠と、推理作家・香月史郎。心霊と論理を組み合わせ真実を導き出す二人は、世間を騒がす連続死体遺棄事件に立ち向かう。証拠を残さない連続殺人鬼に辿り着けるのはもはや翡翠の持つ超常の力だけ。だがその魔手は彼女へと迫り――。ミステリランキング5冠、最驚かつ最叫の傑作!

これを読み始めたのはすでに2021年の年の暮れも押し迫った頃で、年内に読み切るのは無理だろうと思っていました。
ところが、ところが。
年末のいろいろな用事をようやく済ませた大みそかの午後に最終話を読み始めたところ、怒涛の、そして衝撃の急展開に突入し、途中でやめるにやめられなくなりました。
結局のところそのまま一気に読み切ってしまい、私の2021年ベスト10も、土壇場で1作品入れ替わるという結果に。
完全に予定外ではありましたが、1年の最後の読書として非常に満足のいくものとなりました。


タイトルにもその名が入っている城塚翡翠は自らを霊媒と名乗る霊能者で、透き通るような白い肌と美しい翠の瞳を持つ美少女。
いえ、実際には成人した女性なのですが、美少女としか表現しようのない、どこか世間知らずであどけない雰囲気を持っています。
彼女には死者に共鳴してその者の記憶や意識を見る能力があり、その能力を使って殺人事件の重要な手がかりを知ったり、あるいは犯人が誰であるかをずばり指摘したりすることが可能です。
この能力があれば警察も探偵も要らないのでは、と思えるようなチート能力ですが、問題は警察は霊能力を証拠として採用できないということ。
霊能者である翡翠にしか見たり感じ取ったりできないものを真実だと証明することなど不可能なのですから、これは当然ですね。
そこで翡翠の霊能力を活かすべく、彼女とコンビを組んでさまざまな事件の解決に当たるのが、本作の語り手であり推理作家の香月史郎です。
香月は霊能力を持たない普通の人間ですが、推理作家ならではの論理的思考力の持ち主で、翡翠が霊視した結果に論理的な道筋をつけ、警察が事件を解決できるよう導く役割を果たします。
つまり、本作は霊能という特殊能力を用いて謎を解く特殊設定ミステリであると同時に、論理でそれを補強する本格ミステリでもあるのです。
ふたりの探偵役による役割分担が新鮮で、興味深く感じました。


ーーと、思っていたのですが。
読み終わった今となっては、その時点でもう作者の掌の上で踊らされていることは明白ですね。
本作は全4話からなる連作ミステリで、合間に「インタールード」として凶悪な殺人鬼による連続死体遺棄事件について語られます。
最終話で、翡翠と香月はついにその事件の真犯人を追うことになるのですが、そこで明かされる衝撃の真相と怒涛の急展開に、思わず驚愕の声が出そうになりました。
ミステリは大好きなのでたくさん読んでいますが、最近読んだ中では一番の驚きでした。
いや、なんだかおかしいなと思った箇所はいくつかあったのです。
たとえば、とある人物の描写についてはかなり序盤の段階から違和感があり、不快感すら感じていたほどだったのですが、それが最終話の真相につながる伏線だとは想像もしませんでした。
別の人物の心理描写についても引っかかるものがあったのですが、それもまた伏線だったとは。
本作には「すべてが、伏線。」という惹句がつけられていますが、まさにそのとおりだったと、読了後に感心し、納得したのでした。
巻末の解説によると、作者の相沢沙呼さんは小説家であると同時に奇術師でもあるとのこと。
本作には奇術で用いられるトリックが応用されていて、読者の目をタネ=真相から巧妙に逸らせる仕掛けがなされています。
奇術とミステリが相性のいいものだとは知っていましたが、こうして見事に騙されると、上質なマジックを目の前で見せられたような驚嘆と満足感がありました。


いやはや、1年の最後に大いに驚かされました。
最終話は怒涛の論理展開に圧倒され、ついていくのがなかなか大変でしたが、それもまた面白かったです。
本作はすでに続編も刊行されていて、『invert 城塚翡翠倒叙集』というタイトルなので次はどうやら倒叙ミステリのようですね。
どのような推理が展開され犯人が追い詰められていくのか、これまた楽しみです。
☆5つ。