tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『3月のライオン (17)』羽海野チカ


島田研の弟分同士であり、ライバルである二人の、白熱の対局――獅子王戦・決勝トーナメント:零VS二海堂戦!!
奇策と取れるような手を繰り出す零に対し、あくまでも堅実に正攻法を行く二海堂。いつだって、そばに居た。少しでも長く、この時間をどこまでも。熱すぎる勝負の行方は、果たして…!? そして師である島田は――。
一方「三日月堂」3代目のあかりは、ひょんなことから…三月町に"おいしい"を振りまく大奮闘!
次から次へ、ご近所さんも巻き込みながら予想だにしない展開に!? そこには笑顔と、こみ上げる想いがあって…

待ちに待った17巻!
3月のライオン』は刊行ペースがゆっくりでいつも1年以上の間が空くのですが、多少ストーリーを忘れていても新刊のページをめくり始めればあっという間にライオンワールドへと引きずり込まれます。
この「帰ってきた」感がたまらないですね。
今回もシリアスとギャグとあたたかさがちょうどいい塩梅で詰め込まれた濃密な物語を満喫しました。


17巻は前半が零くんを中心とする将棋エピソード、後半があかりさんの三日月堂エピソードと、ふたつの大きなパートに分かれていてとても読みやすかったです。
将棋エピソードは零くんと二海堂くんの直接対決が最高でした。
羽海野さんが描く盤上の戦いは本当にいつもユーモラスで楽しいんですよね。
もちろん棋士たちにとっては一戦一戦が真剣勝負なわけですが、盤上をジャックラッセルテリアが走り回ったり、城塞が築かれたりと、将棋の知識がない人間にもビジュアル的に楽しい表現が立て続けに飛び出してフフッとなっているうちに、いつの間にやら一流棋士の凄みを感じさせる結末になだれこんでいるのはすごいとしかいいようがありません。
そして、真剣勝負の末にすっかり心友となってしまう零と二海堂。
友達のいない子ども時代を送った者同士がイチャコラしているのは微笑ましい、いや尊いし、そんなふたりを見守る島田さんの姿がこれまた素敵。
ああ、ごちそうさまでした、と言いたくなる将棋パートなのでした。


ごちそうさまといえばもちろんあかりさんパートも負けてはいません。
というかこちらこそが本来の意味の「ごちそうさま」。
今回、あかりさんは工事現場で働く人々へおやつを出前するという新しい仕事を始めます。
あかりさんの工夫と心配りがたっぷり詰まった三日月堂のお菓子はどれも本当においしそうだし、だんだん甘味のみならず肉体労働の建築作業員たちの小腹を満たすものまで出前するようになり、さらにはカレーライスまで登場することに。
しかもそのどれもが好評の嵐となり、ついには町内のほかのお店まで巻き込んで、一大おやつプロジェクトみたいになっていくのがなんとも痛快で多幸感に満ちています。
こんな素敵なおやつタイムがある町に住んでみたいなと思いますし、あかりさんの、本人はおそらくまったく自覚がなく特に戦略があるわけでもないであろう商才には舌を巻くしかありません。
下町の個人商店の後継者問題は前巻でも触れられていたことですが、三日月堂にはそんな心配はなさそうですね。
今回はあかりさんが中心でしたが、ひなちゃんも早く三日月堂で働きたいと思っているわけですし、モモちゃんも一緒に新作和菓子を考案するような日が来るかもしれません。
そんな未来が思い描けるエピソードに心がほっこり温まりました。


少しずつ物語が完結に近づいているのが感じられて少しさみしいですが、この物語の行きつく先を早く見たいという気持ちもあります。
零も二海堂も川本3姉妹も、最後はみんな笑っていてほしい。
この17巻の表紙のように。
次巻も楽しみです。




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