tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『3月のライオン (7)』羽海野チカ

3月のライオン 7 (ジェッツコミックス)

3月のライオン 7 (ジェッツコミックス)


新人王を獲った零だったが、いじめられているヒナのために、自分が何もできないと勝手に思い込んでいた。
一方、ヒナは学校で心が折れそうになりながらも、懸命にいじめと戦っていた。
二人の様々な思いが交錯する中、物語は新たな展開をみせる。
「本当の優しさとは何か?」
あなたに問いかける『3月のライオン』第7巻、ここに登場です。

この巻もまた泣いてしまいました。
最初から最後まで、ずっと涙が止まらなかった。
6巻では悪役っぽく描かれていた棋士、山崎順慶の意外な一面と彼なりの戦う理由に心打たれて。
将科部(将棋科学部)のメンバーと顧問の先生たちの輪の中に入ることができて、喜ぶ零くんの姿がうれしくて。
どんなに苦しくてもつらくても決して心折れることなく、いじめに真正面から立ち向かい、周りの人たちへの気配りも忘れないひなちゃんの強さと優しさに圧倒されて。
戦いを乗り越えたひなちゃんのキラキラ輝くような笑顔が愛おしくて。
やっぱりひなちゃんのいじめとの戦いのエピソードの印象が強すぎて、確かに一番力を入れて描かれた部分で、強く心を動かされたのだけれど、それだけでなく、ほんの脇役にもちゃんとドラマを用意しているところが羽海野さんのすごいところ。
ひとりひとりの登場人物を丁寧に描いていて、羽海野さんのキャラクターたちに対する愛情の深さと優しさを思ってまた涙。
そんな優しい羽海野さんだからこそ、7巻のラスト2話から始まる零と宗谷名人の記念対局の舞台が岩手・盛岡であることも、羽海野さんらしいさりげない東北支援なのではないかと思えて、ギャグっぽいシーンですら涙、涙でした。


もちろん涙だけでなく、笑いもあります。
個人的には島田八段がらみの部分はすべてツボでした。
華がなくても、もっさりしてても、胃弱でも、私は島田さんが大好きです。
島田さんのポスター、ぜひほしい!と思ってしまうくらいです。
あとは林田先生や将科部の部長・野口がやっぱりこの巻でも素敵で、いいセリフもあってますます好きになりました。
7巻からの新キャラ、ひなちゃんの新しい担任の国分先生や、登山セラピスト棋士(!?)・櫻井岳人もそれぞれ魅力的で、またぜひ登場してほしいキャラクターです。


それにしても、このマンガ、ぜひ中学校や高校の図書室に置いてほしいと思うのですが、どうでしょう。
この作品には、自分なりに人生を生きていくためのヒントがたくさん詰まっているし、読者に「私も頑張ろう」と思わせる力があると思うのです。
信じ続けても、努力しても、叶わない夢もある。
自分の好きなことを、他人が理解してくれないこともある。
話の通じない相手がいる、思いが届かない相手もいる。
困難に直面した時、無力感に囚われることもある。
うまくいかないこともたくさんある人生で、その人にできることは、ただ自分にできることを愚直にやり続けて、積み重ねていくことしかないのですね。
そうして地道に頑張っている人をちゃんと見てくれている人は必ずいる。
認めてくれる人がきっといる。
絶対に、ひとりなんかじゃないよ、と…。
そして、ひとりでは越えられない壁も、誰かと一緒なら乗り越えられるし、そうやって人は生きていくんだよ、と…。
そう力強く、呼びかけてきてくれる物語だと思います。


宗谷名人は初めて登場した時から気になる人物でしたし、零くんとの初対局は熱いものになりそうで、8巻も本当に楽しみです。
この物語に出逢えたことに、心から感謝。
羽海野さん、また素晴らしい物語を届けてくださって、ありがとうございました。