tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『いもうと』赤川次郎


本当に、一人ぼっちになっちゃった……。大好きな姉・千津子に続いて母も亡くし、父は別の家庭へ。高校を出て就職し、中堅社員として働く実加の前に突然現れたのは、見知らぬ女の子だった! 『ふたり』から11年、27歳の実加は危うい恋に吸い寄せられ、社の一大プロジェクトに奮闘、果ては結婚式場まで探す羽目に! そして、ある夜、懐かしい姉の声が再び――。姉妹小説の金字塔、奇跡の続編。

赤川次郎さんを読むなんて一体何年ぶりでしょうか。
しかもあの『ふたり』の続編!
交通事故で亡くなった姉・千津子の声が妹の実加の頭の中で聞こえ始め、やがて姉妹の永遠の別れがやってくるまでを描いた青春小説『ふたり』にはずいぶん泣かされたものでした。
まさか今になって続編が書かれるとは思いもしませんでしたが、それだけ『ふたり』が人気作だったのであり、赤川さんにとっても思い入れがある作品だったのでしょう。
私にとっても思い出深い作品ですので、文庫化の知らせを見て迷わず手に取りました。


『ふたり』の実加は、読んだ当時の私よりほんの少しだけお姉さんでした。
ですが本作『いもうと』での実加は27歳のOL。
……今の私の方が、ずっとお姉さん (というより親戚のおばさんの方が近いかも……) です。
いつの間にか年齢が逆転してしまった不思議な感覚を味わいながら読みましたが、誰にでも心優しくお人好しな実加をハラハラしながら見守るような心地でした。
冒頭いきなり母親が亡くなるところから物語が始まるので、とにかく実加のことが心配でならないのです。
しかも母親の死には父親の浮気が関わっているというところがもう最悪。
そういえば『ふたり』のラストで実加が姉の千津子と永遠にお別れすることになったのも、父親の浮気がきっかけだったと思い出し、相変わらず最低な父親だなと20年以上も経ってからまた憤りを新たにすることになってしまいました。
父の助けを借りずに生きていくと決意した実加には大人になったなぁと感慨も覚えましたが、母を失い父から離れて本当にひとりぼっちになってしまった実加が大学進学をあきらめて高卒で就職する展開は、実加が不憫でなりませんでした。


それでも、就職して時間が経ち27歳になった実加は、父親と次第に和解していきます。
そのきっかけになったのが、突然実加の前に現れた「いもうと」の幸世。
父親とその浮気相手の祐子との間にできた女の子なのですが、かわいらしさが存分に伝わってくる描写で、実加が幸世への愛情から少しずつ父親と祐子にも心を許していくのは複雑な気分ながら理解でき、本作における大きな救いになりました。
「お姉ちゃん」をずっと頼りにして生きてきた実加が今度はお姉ちゃんになるという図式がいいですね。
女きょうだいのいない私はとてもうらやましく感じました。
そういう女同士の絆が印象的で心温まる要素として描かれているからこそ、男性陣のダメさ加減がどうにも気になります。
なんでこんなに実加の周りには不倫関係が多いんだろうと不思議になるくらい、不倫をしている男性ばかり登場するのはいかがなものなのか。
不倫はしていなくても (たぶん)、責任の重い大きな仕事をまだ若い実加にほぼ丸投げ状態で押し付ける上司なんてのも登場して、もしかして実加ってものすごく男運が悪いのでは……などという思いが湧いてくるくらいです。
とにかく男性の登場人物はほぼ全員がダメ男という中で、実加は困難にもめげずに立ち向かい、奮闘して乗り越え、成長していきます。
恋愛でも仕事でも、ハラハラしながら見守り、なんとか切り抜けた実加に「よく頑張ったね」と褒めてあげたくなり……、あれ、もしかして私、いつの間にか千津子の視点で読んでいる?と気づいたときにはなんだか愉快な気持ちになりました。
『いもうと』というタイトルの真の意味は結末で明らかになるのですが、個人的には読者である自分にとっての実加を指すタイトルであるように感じました。


前作のファンとして、「こんな続編が読みたかった!」と思えるような作品ではありませんでしたが、実加をはじめとする登場人物たちも、久しぶりに触れる赤川さんの文体も、ただただ懐かしかったです。
そういえば『ふたり』に登場した実加のボーイフレンドはどうなったんだ……とか気になるところもありましたし、千津子がほとんど登場しないのは当然とはいえさみしく感じましたが、長い時を経て帰ってきた物語に、旧友に再会したようなあたたかさを感じました。
☆4つ。