tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『密室殺人ゲーム2.0』歌野晶午

密室殺人ゲーム2.0 (講談社文庫)

密室殺人ゲーム2.0 (講談社文庫)


あの殺人ゲームが帰ってきた。ネット上で繰り広げられる奇妙な推理合戦。その凝りに凝った殺人トリックは全て、五人のゲーマーによって実際に行われたものだった。トリック重視の殺人、被害者なんて誰でもいい。名探偵でありながら殺人鬼でもある五人を襲う、驚愕の結末とは。第10回(2010年)本格ミステリ大賞受賞作、2010本格ミステリ★ベストテン第1位。

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』の続編。
前作の衝撃的な結末の性質上、続編は一体どのようなものになるのか予想がつきませんでしたが、そこはさすが歌野さん、前作を踏まえつつ、しっかりと正統な続編を生み出してこられました。


設定としては前作とほとんど同じ。
「頭狂人」「044APD」「aXe」「ザンギャ君」「伴道全教授」というハンドルネームの本格ミステリファンの5人が、ネット上のAVチャットを通じて密室殺人をテーマにした推理クイズを出題し合い、謎解きを競うというゲームを描いています。
これだけならごく普通の推理ゲームであり、実際にやっている人もいそうですが、本作で描かれるこのゲームのもっとも恐るべき点は、出題者=犯人である、ということ。
そう、つまり、出題者が実際に自分で密室殺人事件を起こし、自分が考えたトリックを仲間たちに見破らせるというゲームなのです。
「たかが」推理ゲームのために、実際に殺人を犯してしまうという異常さと不道徳性が、この作品の肝です。
普段ミステリを読まない人は、この設定についていけないかもしれません。
ですが、ミステリ好きにとっては、この設定こそが大きな問いとして自らに突き付けられているように感じるのです。
いかに虚構世界のこととはいえ、人が殺されるという内容の物語を喜んで読み、ゲームやクイズと同じ感覚で推理に興じることも、不道徳ではないのか?と…。
そう考えると、作者がこのシリーズを通して書こうとしていることは明快で、メタミステリの手法を用いたミステリ批評としての側面が見えてきます。


そういう評論的な部分がありながらも、ミステリとしても満足のいくレベルを保っているのがこの作品のすごいところです。
前作と全く同じ設定で、前作の結末などなかったかのように始まる今作。
前作と同じように謎解きゲームを楽しみながら読んでいくうちに、少しずつ前作からのつながりが明かされていきます。
中盤でそのつながりの全貌がほぼ見えた時には、なるほどなぁと感心しました。
もちろん、個々の推理クイズも前作同様バラエティに富んでいて、楽しめるものばかりです。
ミッシングリンクもの、バカミスっぽい脱力トリックもの、手の込んだ密室トリックものなどがありますが、特に「相当な悪魔」「密室よ、さらば」は単なる密室トリックだけではない、「出題者=犯人」という設定を巧妙に利用した「もう一つの驚き」が用意されていて、その意外性と異常さに驚かされました。


前作と同じ設定を持ちながら、「少しずらす」ことで再び読者を楽しませてくれますが、前作の記憶がある分、インパクトは少し薄れてしまったようにも感じました。
それでも読み応えは変わっていませんし、もともと三部作として構想した作品だという話なので、ぜひもう一つ続編を書いてシリーズを完結させてほしいなと思います。
☆4つ。