tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

KOBUKURO WELCOME TO THE STREET 2018 ONE TIMES ONE @京セラドーム大阪 (7/21・22)

*福岡1日目公演の内容も含めてネタバレしています。


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今年のコブクロのツアーの締めくくり、セミファイナルとファイナル公演は、暑い熱い大阪での開催。
「史上最大のストリートライブ」は、まさかのシークレットゲストあり、他の公演ではなかった特別な1曲の披露ありと、ツアーのクライマックスにふさわしい熱気あふれる2日間となりました。
今回は日替わり曲もあったので、京セラ2デイズのみならず福岡1日目の曲目も合わせてセットリストを振り返ってみたいと思います。


バンドなしのコブクロふたりだけのライブなので、いつもより少し小さめの円形センターステージ。
そこから四方に延びる花道に沿って、向こう側が透けて見える大きな紗幕が吊るされており、開演前は道頓堀の風景が映し出されていました。
客入れBGMもいつものコブクロライブでは洋楽が使われるのですが、代わりに「ざわざわ」という街の雑踏をイメージした効果音が流されていて、ストリートライブの雰囲気を醸し出します。
開演時間が近づき、流れ始めた開演アナウンスはいつものウグイス嬢 (というのかどうか知らないけれど) ではなく、なんと小渕さん!
LEDライトではなく懐中電灯に色紙貼った自作ライトを持ってきている人はまさかいませんよね~?などと笑わせてくれた後、みんなで声を合わせて「コブクロ~!!」と呼びこみ、いよいよ開演。
オープニングは紗幕にメジャーデビュー前のコブクロのストリートライブ映像が次々流されるというものでした。
約20年前のコブクロのふたりがあまりに若いので思わず笑ってしまう人続出でしたが、私はというと、ひっかけ橋 (戎橋) のたもとの今はなきハーゲンダッツのお店だとか、天王寺ミオ近くの通りだとかの懐かしい風景に、その当時のいろんな思い出が一気にぶわっとよみがえり泣きそうでした……。
ストリート時代のコブクロは知らないけれど、それでも同じ時代の同じ景色を彼らと共有していたのだと思うと、なかなか胸に来るものがありました。
そんな (個人的に) 感動的なオープニングが終わると、花道にふたりが登場、ステージ上で拳をぶつけ合う儀式をやった後、4曲続けて披露されました。


デビュー曲から始まり、盛り上げ曲でテンションを上げて終わるという最初のブロック、いきなり盛り上がりましたね。
個人的にはツアー前の「聴きたい10曲リクエスト」でリクエストしていたうちの1曲である「One Song From Two Hearts」がうれしかったです。
この曲は小渕さんが足でバスドラ叩きつつギター弾いて、歌って、ハープ吹いて、と1人4役をこなす多才ぶりと、黒田さんの力強いボーカル、活動休止から復帰したコブクロを象徴する歌詞、疾走感があってかっこいいメロディーに美しいハーモニーという、私が好きな要素がてんこ盛りの1曲なんですよね。
「ふたりだけのツアー」にふさわしい曲だからきっと歌ってくれるだろうという期待に応えてくれました。
「ストリートのテーマ」ではふたりがそれぞれフロート (スタッフさんによる手動式) に乗ってアリーナ外周を回ってくれたのですが、京セラセミファイナルでは本当に目の前をフロートが通ったので、コブクロのふたりにほぼ真上から見下ろされるという貴重な体験ができました。

  • 君になれ
  • 日替わり曲1
  • 日替わり曲2
  • 日替わり曲3


「君になれ」は去年のツアーで初披露された新曲ですが、バンドサウンドの原曲が見事にアコースティックバージョンに生まれ変わっていて感心しました。
新しい曲を早くも違うアレンジで聴けるなんて、なかなかないことです。
MCを挟んで、ある意味今回のツアーのハイライトとも言える、その日の気分でその場で曲目を決めるコーナー。
1曲目は黒田さんが会場にリクエストを訊きながら決めた曲、2曲目は小渕さんが歌いたい曲、3曲目は再び会場からのリクエスト、という感じでした。
黒田さんは「何がいい?なんでも歌うで~」と言いながら、「翼よあれが巴里の灯だ」のリクエストには「ギターソロが長すぎる」、「The Big Man's Blues」には「黙殺します」と自分作の曲はことごとく却下していましたが……。
最終的に、福岡1日目は順に「コイン」「そばにおいで」「miss you」、セミファイナルは「STAY」「朝顔」「未来」、ファイナルは「2人」「YOU」「NOTE」という選曲でしたがなかなかバラエティに富んでいますね。
個人的にはリクエストした曲が2曲も入った福岡1日目に感激しましたが、セミファイナルの「STAY」は久しぶりに聴けてうれしかったし、ファイナルは偶然ながら「ふたり」をテーマにしたほっこり系の曲3曲でツアーテーマにも合っていていい選曲だったと思います。
曲目をその場で決めるということはリハーサルをやっていないということなので、歌う前にまずは声出ししたり、パート分けを確認したりとふたりで小声公開リハーサル状態。
中にはかなり長々と打ち合わせしていた曲もあって、大丈夫かしらと一瞬不安になるも、歌い出したらもう一気にその曲の世界へ連れて行ってくれて、当たり前だけれどさすがプロってすごいなぁと感心させられました。
公開リハーサル中にビジョンに映しだされていた「しばらくお待ちください」のアニメーションもかわいくて、なんだかほっこりするコーナーでした。


アコースティックライブで歌われる確率がわりと高い気がする、「Ring」がしっとりと歌われた後は、リクエストランキング上位曲コーナー。
ぶっちぎり1位だったという「桜」のみ固定で、その後の2曲は日替わりでした。
小渕さんは「望み通りの曲が聴けているか分からないけれど……」と言っていましたが、福岡1日目とファイナルで「風」「ここにしか咲かない花」、セミファイナルで「風見鶏」「蕾」が聴けたので、一応どこかの会場を2デイズ参戦していれば全部聴けるように配慮されていたのかなと思います。
さすがにどれもコブクロにとっては「勝負曲」といえる主役級の曲だけあって、聴き応えのある歌を聴かせてくれました。
ちょっと調子が悪いのかなと思える時でも、こういう勝負曲の時にはしっかり安定した歌を歌ってくれるのはさすがですね。
オープニングで道頓堀を映し出していた紗幕が「桜」では桜の花を (大阪では大阪の風景に少しずつ桜の花びらが舞い始めるという特別バージョンでした)、「ここにしか咲かない花」では海辺の風景を映すのに再び使われました。
ここにしか咲かない花」ではステージ上に波打ち際の映像が投影されたのですが、福岡1日目ではイントロを小渕さんが思いっきりミスしてその場に倒れ伏した黒田さんが「波打ち際でくずおれる人」みたいになっていて面白かったです。


セミファイナルのみ>

  • いつか with ゆず
  • 夏色 with ゆず


ロングMCで存分に笑った後盛り上がり曲コーナーへ、というのがいつもの流れなのですが、セミファイナルはなんだか様子がおかしい。
実はライブ序盤からなんとなくいつもと違う雰囲気、というのは感じていました。
黒田さんが妙にそわそわしているというか……、小渕さんのことを「リーダー」と呼び始めるし。
小渕さんは「うちはリーダーとかサブリーダーとかそういうのないから」とクールに (?) 返していましたが、ロングMCに入るなり黒田さんが待ちきれないように「今日は誰か来るって?」と言い出し、ざわつき始める会場。
結局ほとんどMCもないまま、告知コーナーも会場記念撮影もいまだかつて見たことのないような早回しで済ませて、スペシャルシークレットゲスト・ゆずが呼び込まれた時の盛り上がりはすごかったですね。
しかも私は運がいいことに、岩沢さんの登場口に近い席だったので、自転車に乗って登場した岩沢さんを間近で見れてしまいました。
これはもう、興奮するなという方が無理というものでしょう。
ゆずによる「贈る詩」の替え歌でコブクロの結成20周年をお祝いした後、コブクロがストリート時代にカバーしたことがあるという「いつか」、そして「夏色」、どちらもとても盛り上がりました。
「夏色」の「もう1回、もう1回」のコールはテレビで観て楽しそうだと思っていたのですが、まさかコブクロライブでやることになるとは。
北川さんの「それそれそれそれ」「コブクロコブクロ」というコールは早速次の日のファイナル公演の盛り上がりコーナーでも取り入れられていました。
いや~、とにかく楽しかったです。

  • 潮騒ドライブ
  • Moon Light Party!!
  • ONE TIMES ONE


本編最後の盛り上がりコーナーはこの4曲。
いつものツアーだと、このコーナーは黒田さんは「もう俺の仕事は終わった」とか言っているのですが、バンドがいない今回のツアーではそういうわけにもいかず、黒田さんにとってはなかなかハードだったかもしれませんね。
バンドの演奏がない分、ボーカルがいつもよりはっきりくっきり聴こえて、個人的にはとてもうれしかったです。
ループマシン (小渕さんのギターの音をその場で録音して流す) を使用して音を重ねてはいましたが、ギター1本でも十分盛り上がれるもんですね。
最後の「ONE TIMES ONE」はちょっと落ち着いた雰囲気で、ラストはマイクオフアカペラ。
この曲はこのツアーで初めて聞くのに、初めてがいきなり原曲と違うアレンジという今までにないパターンでした。
いつかバンドバージョンもライブで聴けることを願っています。

  • 日替わり曲4
  • 焚き火の様な歌 <ファイナルのみ>
  • バトン


アンコール1曲目はまたまた日替わり曲で、福岡1日目は「蜜蜂」、セミファイナルは「虹の真下」、ファイナルは「夢唄」が聴けました。
どれもよかったですが、セミファイナルとファイナルはどちらもストリート時代に作られた「夢」をテーマにした曲で、大阪ならではの特別感のある選曲でした。
そして、ファイナルでは特別に「焚き火の様な歌」が披露されました。
東日本大震災の被災者を想って作られた曲で、今回は西日本の豪雨被害の被災者へ向けて歌われたのですが、久々に聴けてうれしいような、この曲が再び歌われる日が来てしまって悲しいような、ちょっと複雑な気持ちで聴いていました。
ただ、なんの指示もなく自然発生的に灯されていき、会場を満たしたLEDライトの赤い光はとてもあたたかく、感動的でした。
最後の「バトン」も「焚き火の様な歌」の後に歌われたファイナルでの歌が一番心に残っています。
小渕さんの曲説は毎回少しずつ違っていたものの、共通して言っていたのは「今ここに生きている奇跡」ということで、ライブに参加できたありがたさをかみしめ、頑張って生きて次のライブにも絶対に参加するのだという決意を抱かせてくれる、ライブの締めくくりにふさわしい1曲でした。


コブクロが「大きなチャレンジ」だと言っていた、ふたりだけのツアー。
いろいろと試行錯誤や苦労もあったのでしょうが、参加したファンとしては楽しかったという一言に尽きます。
コブクロはバンドメンバーとも長い付き合いで信頼関係がしっかり築かれているので、バンドありのいつものツアーも素晴らしいのですが、バンドなしでも素晴らしいツアーをやってくれました。
またこんなツアーもたまにはやってくれるといいなと思っています。
その前に結成20周年の記念ライブが9月に宮崎で行われるのですが、残念ながら私は参加できないので、少し早いですがここで言ってしまいましょう。
20周年おめでとう、そして、ありがとう!!


【おまけのMCレポート・ゆずさん編】
小渕さん:僕らがストリート始めた時、ゆずさんはもう第一線で活躍してたんですよね。
黒田さん:そう、僕らいつもストリートでゆずさんのそっくりさんと戦ってたんですよ。
小渕さん:「かぼす」とか「すだち」とかね。
北川さん:あの頃は一県に一組は「かぼす」とか「すだち」がいたからね~。
岩沢さん:僕たちもメジャーデビュー後に1回だけ大阪にストリートライブしに来たことがあったよね。心斎橋だったかな。
北川さん:そうそう、ストリートしてたら警察が来て、「君ら、ゆずみたいなことしてんじゃない」って怒られた。いや、「みたいな」じゃなくてゆずですけど~!って。
(歌い終わって……)
北川さん:黒田くんのスタンド (マイク) 高すぎ!そんで小渕くんは飲み物のストロー長すぎ!!なんでそんな長いの!?
小渕さん:いや、あんまり腰かがめずに飲めるかな~と思ったんです。そしたらさっきストロー鼻の穴にズボッて入りました……。
(ゆず退場後)
黒田さん:はい、今から反省会やりまーす!
観客:え~~~~!!
黒田さん:なんなん、「もう1回!もう1回!」って。みんなコブクロファンやと思ってたのに、実はゆずさんのライブ行ってやがるな!?
小渕さん:今日一番盛り上がったよね~。黒田くんも珍しく走ってたやん!
黒田さん:北川さんに「黒田くん、行くよ!」って言われて、必死でついて行ったわ。
小渕さん:お前海辺のグラビアアイドルみたいに走ってたよな。

『人魚の眠る家』東野圭吾

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)

人魚の眠る家 (幻冬舎文庫)


「娘の小学校受験が終わったら離婚する」。そう約束していた播磨和昌と薫子に突然の悲報が届く。娘がプールで溺れた―。病院で彼等を待っていたのは、“おそらく脳死”という残酷な現実。一旦は受け入れた二人だったが、娘との別れの直前に翻意。医師も驚く方法で娘との生活を続けることを決意する。狂気とも言える薫子の愛に周囲は翻弄されていく。

あらすじを読むとミステリなのかとも思えますが、実際はほとんどミステリ要素はありません。
東野さんのいつもの「理系ミステリ」からミステリを引いた感じでしょうか。
今回の理系要素は、脳死と臓器移植です。
「死」の定義について、深く考えさせられました。


プールでの事故により運び込まれた病院で、「おそらく脳死」であると医師に宣告された5歳の瑞穂。
医師に臓器提供の意思を問われた両親は、一度はそれを受け入れようとしますが、瑞穂が手を動かしたように夫婦ともに感じたことから、「娘は生きている」と脳死判定を受けることをやめ、彼女を「生かし続ける」道を選びます。
おそらく脳死だと診断された状態の子どもを生かし続けるということが、実際に医学的に可能なのかは、私には知識がなくよく分かりません。
ですが、心臓がまだ動いている状態の人間を「死んでいる」とすることを受け入れられない人の気持ちはよく分かります。
幼い子どもがそうなったなら、なおさら。
なんとしてでも生かしたい、まだ死なせたくない、と思うのは、親御さんなら当然のことだと思います。
けれども、脳の機能が停止していて、意思疎通はもちろんのこと、自分で食事することも呼吸することも身体を動かすこともできない子どもを、「死んだと認めたくない」という親の想いのみで、人工的な手段により無理やり生かし続けることが正しいことなのかと問われると、うーんと考え込んでしまいます。
「心臓が動かない」というのはシンプルな「死」の定義ですが、医療技術が発達して「心臓を動かし続けること」が可能になると、その定義にこだわることに支障が出てきます。
「生きている」というのは、単に「心臓が動いている」ということだけではなく、人としての活動ができるということも含まれるのではないかと思うのです。
だからといって本作で瑞穂を生かし続けるという選択をした両親を「間違っている」とも思えず、なんとも難しい問題だなと頭を抱えるばかりでした。


そして、人が「脳死状態」だと確定診断を受けることは、臓器提供をするかしないかという問題につながってきます。
本書の中で指摘されている通り、幼い子どもの臓器提供は日本では件数が非常に少なく、臓器移植を必要としている子どもたちは海外へ渡って移植を受けなければならないという状況が、臓器移植法の成立後も続いています。
このことに関しても、なんとも難しい問題だ、というのが正直な思いです。
臓器移植が必要な子どもを助けてあげたいという気持ちはもちろんあります。
けれども小さな子どもに、事前に臓器提供の意思の有無を確認しておくことなど不可能ですし、突然の子どもの脳死という悲劇に見舞われた親に、ゆっくり悲しむ間もなく臓器提供するかどうかの選択を迫るというのもなかなか酷な話です。
自分の子どもの臓器が他の誰かのものとなって生き続けるということを、すんなりと受け入れられない親もいるでしょう。
時間が経てば「いいことをした」と納得できるかもしれませんが、脳死直後にそう思えるかは人それぞれだと思います。
その人それぞれの考え方や感じ方に、他者が正しいとか間違っているとかいうことはできませんし、するべきではないでしょう。
でも、それでは一刻も早く臓器移植が必要で、臓器提供を一日千秋の思いで待ち続けている人たちは、どうやったら救えるのか。
重い問いに胸が苦しくなりますが、きっとひとりひとりが考え続けることが大事なんだろうなと、本作を読んで思いました。


娘の瑞穂を生かし続けるという選択自体は責められないけれど、母親の薫子には多少狂気じみた部分も感じられて、完全に共感するというわけにはいきませんでした。
それでも、薫子の母としての娘への想いは、胸を打たれるものでした。
プロローグとエピローグのつながりもきれいで、気持ちのよい読後感を味わうことができました。
☆4つ。

『ザ・ロング・アンド・ワインディング・ロード 東京バンドワゴン』小路幸也


明治時代創業の老舗古本屋・東京バンドワゴンは本日も大騒ぎ!先々代の時代に錚々たる文士が寄稿して編まれ、強盗殺人までも引き起こした“呪いの目録”。ずっと封印されていたその目録を狙う不審な男がうろつきはじめた―。さらに、なんと英国の秘密情報部員が堀田家へ乗り込んできた!二代目が留学先から持ち帰ったある本を巡り、勘一、我南人たちはロンドンへ―。人情たっぷりの第11弾!

毎年春の楽しみ、「東京バンドワゴン」シリーズ。
もう11作目にもなったのですね。
東京下町の古書店東京バンドワゴン」を営む大家族、堀田家の面々との付き合いも長くなりました。
登場人物も新作の刊行に合わせて毎年年齢を重ねていて、最年長の勘一に至ってはすでに85歳となりましたが、威勢のよさはシリーズ開始当初から全く変わっておらず、まだまだシリーズは続いていくだろうと思わせてくれるのがうれしいです。


個人的に本作はここ何年かのシリーズ作の中では一番よかったです。
何がよかったって、古いものと新しいもの、両方がうまく物語に取り入れられていたことですね。
四季に分かれた4つの話の中で、1章と2章にあたる春と夏の話は、老舗古書店ならではの、伝統と歴史を感じさせる物語になっています。
東京バンドワゴン」の蔵に封印されている「呪いの目録」は、これをめぐって強盗殺人まで起こったといういわくつきの目録で、日本の近代文学を代表する錚々たる作家たちが寄稿しているお宝なのですが、今回は再びこの目録をめぐる騒ぎが起こります。
これが春の章。
そして夏の章では、勘一の父がイギリス留学から帰る時に持ち帰った古い洋書が騒動を引き起こすことになり、なんと勘一たちが急遽ロンドンへ飛ぶという驚きの展開になります。
どちらも「東京バンドワゴン」が明治時代から続く老舗の店だからこそ起こる事件で、先代・先々代に関わる堀田家の歴史が紐解かれ、ワクワクしました。
古いものには価値があり、まさにその古さという価値を扱う商売をしている「東京バンドワゴン」らしい物語でした。
ロンドンへ行っても江戸っ子まる出しで啖呵を切る勘一じいちゃん、かっこよかったです。


そして秋の章では、なんと堀田家最年少・もうすぐ5歳の鈴花ちゃんとかんなちゃんが「事件」を持ち込みます。
これは今までにない展開で、ふたりの成長ぶりが感じられますね。
作中で紺と研人も言っている通り、「末恐ろしい子たちだな」というのが率直な感想ですが、しっかり堀田家の血筋を引いているところが頼もしいです。
きっと彼女たちはこれからも様々な形で堀田家に持ち込まれる事件や騒動に関わっていくことになるのでしょう。
そんな未来が見える展開に心が躍り、また語り手で故人 (つまり幽霊?) のサチおばあちゃんが紺や研人と新たなコミュニケーション手段を得るのも面白かったです。
かんなちゃんはどうやらサチおばあちゃんのことが見えているようですから、今後のシリーズでは紺や研人を交えて4人でコミュニケーションを取る機会があったりするかも、と想像すると楽しくなってきました。
最後の冬の章は研人を中心に描かれます。
すでに音楽活動でお金を稼いでいて、ちょっとした有名人となりつつある研人。
でも有名になるということはリスクでもあって、インターネット上に研人に対する中傷の書き込みが増えているという、非常に現代的なテーマのお話でした。
研人のみならず、幼なじみでガールフレンドの芽莉依 (めりい) ちゃんまで標的になっていて心配になりましたが、そこは堀田家、人数が多いだけでなく人脈も幅広いですから、それを活かしてベストな解決方法で大団円となりました。
また、医大を目指す花陽ちゃんに関して、なかなか感動的な展開もあり、いつになく目頭が熱くなってしまいました。


堀田家の過去と未来を描いた11作目、非常に満足しました。
これは次作以降も楽しみというものです。
いよいよ医大受験を迎える花陽ちゃんの入試結果がまずは楽しみ。
……と思いきや、次巻は番外編となるので花陽ちゃんの入試結果はさらにその次、つまり2年後までお預けですね。
待ち遠しいです。
☆4つ。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp