tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『オール・マイ・ラビング 東京バンドワゴン』小路幸也


東京、下町の老舗古書店「東京バンドワゴン」を営む堀田家は、今は珍しき四世代の大家族。店には色々な古本が持ち込まれ、堀田家の面々はまたしても、ご近所さんともども謎の事件に巻き込まれる。ページが増える百物語の和とじ本に、店の前に置き去りにされた捨て猫ならぬ猫の本。そして、いつもふらふらとしている我南人にも、ある変化が…。ますます賑やかになった大人気シリーズ、第5弾。

いや〜、やっぱりこのシリーズいいわ。
好きだなぁ〜。
と、しみじみ思ってしまいました。
東野さんの「ガリレオ」シリーズとはまた違った意味での、鉄壁の安定性。
今回もほのぼの笑って泣いて、いい気分にさせてもらいました。


東京下町の、戦前から3代にわたって続く古書店「東京バンドワゴン」。
この店の主は堀田勘一、81歳。
彼を筆頭に、現在は4世代12人プラス6匹、さらに幽霊1名!?という大家族で古書店とカフェを営んでいます。
家訓は「文化文明に関する些事諸問題なら、如何なる事でも万事解決」のほかいろいろ。
歴史の古い東京バンドワゴンには、貴重な古文書や謎のメッセージつきの本など、さまざま本が不思議な謎とともに持ち込まれます。
いつも賑やかで明るい堀田家の日々は、少しの謎とたくさんの素敵な人々とのつながりで流れていきます。


昭和のテレビドラマを思わせるこのシリーズ。
古書店を舞台にした日常の謎を追う連作短編ミステリとしての側面ももちろん楽しいのですが、シリーズとして読み続ける上で最大の喜びは、時間の経過に伴う登場人物たちのさまざまな変化を楽しめることだと思います。
「サザエさん」などは登場人物が誰も歳を取りません。
これはこれで、登場人物が寿命を迎えるというようなことがないので、安心して見ていられるのですが、人生の深みを味わうには少し物足りないといわざるを得ません。
その点、「東京バンドワゴン」シリーズは、1年に1回の刊行で、登場人物たちも1歳ずつ歳を取っていくので、なんだか登場人物がみな本当のご近所さんであるかのように思えてくるのです。
堀田家の中だけでも、結婚をしたり、子どもが生まれたり、子どもが卒業したり進学したり…。
実際の家族に必ず起こる変化が、堀田家にも起こり、その変化を見届けるのがシリーズ読者の楽しみになっています。


今回も、時は作中で確実に流れているのだと思わせる変化がいくつか描かれています。
それは、いい変化もあれば、悪い変化もあります。
生きていればどちらもあって当たり前。
その変化を堀田家の面々がどのように受け入れ、困難が生じればどのように乗り越えていくのか、少しドキドキしながら、でも最後は必ずあたたかい雰囲気で終わらせてくれるという確信を持って読めるのがこのシリーズの最大の魅力でしょう。
我南人に起こったある変化は、少しショッキングなものですが、最後は本当によかったと思わせてくれました。
堀田家の年頃の2人は、研人が小学校を卒業し、花陽は高校受験生になります。
いよいよこれから大人への階段を本格的に上っていく2人がどんな道を選び、進んでいくか、今作でも少しほのめかされていますが、続編ではもっと丁寧に描かれるのではないかと今から楽しみです。
それに、大きな決断をした我南人の、ミュージシャンとしての今後の活動の行方も…。
小路さん、1年に1度の楽しみをありがとう。
☆5つ。