tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『使命と魂のリミット』東野圭吾

使命と魂のリミット (角川文庫)

使命と魂のリミット (角川文庫)


「医療ミスを公表しなければ病院を破壊する」突然の脅迫状に揺れる帝都大学病院。「隠された医療ミスなどない」と断言する心臓血管外科の権威・西園教授。しかし、研修医・氷室夕紀は、その言葉を鵜呑みにできなかった。西園が執刀した手術で帰らぬ人となった彼女の父は、意図的に死に至らしめられたのではという疑念を抱いていたからだ…。あの日、手術室で何があったのか?今日、何が起こるのか?大病院を前代未聞の危機が襲う。

あらすじを読んで勝手に医療ミスがテーマの作品かと思い込んでしまったので、意外に軽めの作品だったのにビックリ。
いや、もちろん勘違いした私が悪いんですけど。
でもボリュームもそこそこあるし、ミステリではなさそうだから、もっと重厚な社会派の作品かと思ったので思いっきり肩透かしを食らった気分になりました。
それでもぐいぐい読ませる筆力と爽やかな読後感はさすが東野さんですね。


この作品はあまりストーリーを詳しく書かないほうがよいと思うので、上記のあらすじ引用までにとどめておきます。
上に書いたように医療ミスがテーマの社会派医療小説ではありません。
かと言ってミステリでもなく…病院を舞台にしたサスペンスタッチの感動作ですかね。
大学病院に連続して脅迫状が届き、犯人の真意が分からないまま疑心暗鬼に陥る病院関係者たち。
後半の、ある重大な手術が行われている最中に危機が迫る展開は思わず手に汗握ります。
研修医の夕紀パート、刑事の七尾パート、犯人パートといくかのパートに分かれて場面転換を頻繁に差し挟みながら、危機感と焦燥感を煽っていく東野さんの書き方はやっぱり上手い。
それだけにラストはストーリー中の医師たち同様、緊張から解放されてホッとすると同時に爽やかな感動を味わえます。


この作品のテーマはタイトルにもある「使命」かな。
医師、看護師、刑事…さまざまな立場や職業の人物が登場しますが、皆がそれぞれに自らの使命を果たそうと全力を尽くす姿に胸を打たれます。
本文中に何度も「使命」という言葉が使われているのはちょっとくどいような気もしましたが(自然にそれぞれの「使命」を感じさせて欲しかったなぁ…)、ある人物の「人は誰でも自分だけの使命を持って生まれてきている」という言葉には思わず考えさせられました。
う〜ん、私の使命って一体なんだろう??
医者や看護師や刑事の使命は分かりやすいような気がするけれど、私の仕事って「使命」なんてそんな大げさな言葉を当てはめるほどのものじゃないしなぁ…。
ただ、「使命」と言ってしまうとすごく重大なことのように思えてちょっと腰が引ける感じがしますが、誰でもその時々に自分ができることを全力でやるということは大切だと思います。
どんな仕事だって自分の能力をフルに使って、時には自分以外の誰かのために時間や労力を割いてでもその仕事に取り組まなければならないことは必ずあると思います。
この作品はそのことをちょっと大げさに分かりやすい形で示してくれているのかもしれません。


さすが東野さんの作品ははずれが少なくてどれも高水準だけど、個人的には東野さんが書く本格派医療小説とかも読んでみたいかも…。
☆4つ。




♪本日のタイトル:平原綾香 「Jupiter」 より