tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『密室殺人ゲーム王手飛車取り』歌野晶午

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)

密室殺人ゲーム王手飛車取り (講談社文庫)


〈頭狂人〉〈044APD〉〈aXe〉〈ザンギャ君〉〈伴道全教授〉。
奇妙なニックネームの5人が、ネット上で殺人推理ゲームの出題をしあう。
ただし、ここで語られる殺人はすべて、出題者の手で実行ずみの現実に起きた殺人なのである……。
リアル殺人ゲームの行き着く先は!?
歌野本格の粋を心して堪能せよ!

ネット上で知り合った音声チャット仲間の5人が一人ずつ順番に実際に殺人を犯し、その殺害トリックをクイズとして他のメンバーに出題するという、不謹慎極まりない推理ゲームをテーマにした作品。
ミステリ好きじゃない人にはドン引きされそうな設定ですが、あくまでも「物語」として読めば、いくつものトリックネタが楽しめてなかなか面白い作品です。


登場するトリックはどれもそれほど大掛かりなものではなく、本文中に十分な手がかりが示されるため、読者も登場人物と一緒になって推理ゲームが楽しめる趣向になっています。
ミッシングリンクを見つけ出すものから密室トリックもの、中にはバカミスっぽいものまで、クイズ形式で気軽に楽しめるネタが詰まっているので、推理好きな人にはとても楽しい作品だと思います。
出題者=犯人という構図だけは大前提として最初からはっきりしているので、推理クイズとしてもっともオーソドックスな犯人当ては一つもないのですが、それでも最後までトリッククイズで引っ張って読ませるあたりに歌野さんのトリックメーカーぶりが感じられます。
でも、単なるトリッククイズの小ネタの寄せ集めではないところがさすがですね。
「Q7」のクイズの内容とその解答には驚かされたし、この設定ならではの仕掛けだと思いました。
ラストの終わり方も、賛否両論ありそうですが私は悪くないと思います。


ネット上で、お互い匿名で付き合う人物たちが、トリックの実行のためだけに殺人を犯す―。
これはもしかしたらちょっと自虐的なメタミステリなのかなぁと思いました。
よく本格ミステリは「人間が描けていない」などと評されます。
登場人物が皆、トリックや謎解きのためだけに配された駒のようだと。
この作品はタイトルからして将棋という盤上のゲームにミステリという娯楽を例えているわけですよね。
果たしてこの殺人推理ゲームに関わっている人たちは、本当に単なる「ゲームの駒」だったのか…それを念頭に置いてみると、ラストの展開が非常に効いているなと感心させられます。
…これ以上書くとネタバレになりそうだから、よく分からない文章になってしまったけれど、この辺にしておきます(笑)


設定の不道徳さ、不謹慎さに好き嫌いはあると思いますが、トリックネタ集としてもメタミステリとしても楽しめたので、続編(『密室殺人ゲーム2.0』)も読むと思います。
☆4つ。