tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『凍りのくじら』辻村深月

凍りのくじら (講談社文庫)

凍りのくじら (講談社文庫)


藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う一人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき―。

先日読んだ『探偵伯爵と僕』に引き続き、またもや最後に「やられた!」と思いました。
この「やられた!」が味わいたくて、ミステリを読み続けてるんですよね〜。


この作品を一言でまとめてしまうとしたら、「藤子・F・不二雄先生と、その作品『ドラえもん』に対するオマージュ」です。
ドラえもんを見て育ってきた世代なら馴染みの深いひみつ道具やエピソードが続々と登場し、子ども時代への郷愁を誘います。
私ももちろんドラえもんが大好きでした。
原作マンガはほんの一部しか読んだことはないけれど、小学生の頃は毎年両親に映画も観に連れて行ってもらってましたし、もちろんテレビアニメも毎週見ていました。
でも、『凍りのくじら』に登場するひみつ道具の中には知らないものもたくさんありました。
私が覚えていないだけで、アニメで見たことはあるのかもしれませんが。
辻村深月さんはきっとずっと『ドラえもん』が好きで、原作も全巻揃えて今も大切に読み返しているんじゃないかなという感じがしました。
それくらいに、この作品には『ドラえもん』に対する愛情と、藤子先生に対する尊敬の念があふれています。
他に『ドラえもん』へのオマージュ作品と言えば、羽海野チカさんの『ハチミツとクローバー』の最終巻に『ドラえもん』に登場するあるひみつ道具を用いた読みきりマンガが収録されており、これもとても素晴らしい作品でした。
ネットで一時期話題になった「ドラえもん最終回」(一ファンが同人誌で発表したマンガらしいですが)も、著作権の問題はさておき、ドラえもんファンなら感涙もののよくできた作品でした。
この『凍りのくじら』もこうしたオマージュ作品の代表的なものとしてドラえもんファンに語られていく作品ではないかと思います。
こうしてたくさんのオマージュが捧げられる『ドラえもん』という作品はとても幸せなマンガだと思いますし、また同時にそれだけ出来のよい、偉大な作品なのだと改めて思いました。


ストーリーは藤子・F・不二雄さんが言われたところの「すこし・ふしぎ」な物語になっています。
ドラえもん』の世界がもたらす奇跡の結末はなかなかに爽やかで感動的でした。
登場人物も全員いい味を出しています。
ただ、主人公の理帆子が高校生らしくない冷めた性格で、常に人に対して上から目線だったり多少ひねくれたところもあったりで、なかなか感情移入しづらい嫌な人物として描かれています。
最後まで読めばそうした描写が計算されたものであることは分かるのですが、私は理帆子の言動にかなりイライラしてしまって、正直中盤まではかなり読みづらく感じていました。
それでも終盤は泣いてしまったのですが…。
ちょっと話が長すぎるような気がします。
序盤をもう少し刈り込んでストーリー展開を早くすればずいぶん読みやすくなるだろうなと思います。
それ以外は『ドラえもん』へのオマージュとして成功していると思いますし、主人公の成長を描いた感動的なファンタジー作品なので、とてももったいない。
そんなわけで☆の数は限りなく5に近い4としておきます。
ドラえもん』を見て育った方や、ドラえもんが本当にいたらいいのにと一度でも思ったことがある方におすすめです。




♪本日のタイトル:大杉久美子ドラえもんのうた」より