tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『クドリャフカの順番』米澤穂信

クドリャフカの順番 (角川文庫)

クドリャフカの順番 (角川文庫)


文化祭で賑わう校内で奇妙な連続盗難事件が発生。犯人が盗んだものは碁石、タロットカード、水鉄砲――。事件を解決して古典部の知名度を上げようと盛り上がる仲間達に後押しされて、奉太郎はこの謎に挑むはめに!

米澤穂信さんの「古典部」シリーズ3作目。
今回は文化祭という盛り上がるイベント中の高校が舞台になっているためか、終始明るく楽しい雰囲気の作品に仕上がっていて、自分の中学・高校時代の文化祭のことを思い出しながらとても楽しく読めました。


実は過去2作(『氷菓』『愚者のエンドロール』)は読んだものの、細かい設定などはかなり忘れてしまっていたのですが、さすが米澤さんの描く登場人物たちはみな個性的でキャラが立っているので、読み進めるうちにだいぶ思い出してすんなりと物語の世界に入っていけました。
前作・前々作を読んでいない人でもそれなりに楽しめる作品だとは思いますが、やはりシリーズものなので読んでいたほうがより楽しめると思います。
主人公で探偵役の折木奉太郎は相変わらずの「省エネ主義」で、特に今回はほとんど古典部の部室から動くことのない安楽椅子探偵ぶりを発揮しています。
「面倒くさい」とか何とか言いながら、結局謎を解かずにはいられないところが可笑しいですね。
米澤さんの描く探偵役にはそういうキャラクターが多いような気がしますが。
このシリーズのヒロインである千反田えるは好奇心がとても強いという設定ですが、今回は古典部が窮地に追い込まれているためにその好奇心は抑え気味になっています。
それとは逆に文化祭をめいっぱい楽しもうとあちこちのイベントに参加するのが福部里志
そして、漫研と掛け持ちの伊原摩耶花
この4人の古典部部員たちに、生徒会のメンバー、他の部活の部員など、さまざまな顔ぶれが登場し、賑やかにお祭りの雰囲気を盛り上げていて、彼らと一緒に文化祭に参加しているかのような気分になります。
もちろん楽しいばかりではなく、摩耶花は漫研内の人間関係に悩まされたりもします。
この漫研がらみのエピソードは単なるサイドストーリーかと最初は思っていたのですが、やがて本筋の「事件」と関わってくるあたりは米澤さんらしく、またうまいなと思いました。
最後まで読んでみると、最終的には全てがきれいに一本の線になって、いろいろあったけど起こったこと全部ひっくるめて「文化祭」だよなぁ…と、実際に文化祭が終わった時の気持ちを思い出すような読後感です。


もちろんこうした青春小説的側面だけではなくて、ミステリとしても面白い展開が楽しめます。
文化祭の真っ最中に、ある法則性を持った事件が起こるという設定からして面白いと思いますし、クリスティへのオマージュとしても工夫がされていると思います。
ミステリファンなら思わずにやりとしてしまうような、細かいミステリネタがあちこちに散りばめられているのも、作者の遊び心が感じられて楽しいです。
これは前作『愚者のエンドロール』でもそうでしたっけ。
「省エネ探偵」奉太郎も、安楽椅子探偵でありながら最後には探偵役らしい見せ場もあり、探偵役が板についてきた感じがします。
また、過去作では手紙やチャットでのみの登場だった奉太郎の姉が、今作では実際に登場してさり気なく奉太郎の謎解きのヒントとなるものを置いていくのですが、相変わらずいい味を出していてうれしくなりました。
探偵役としての奉太郎の存在はこのお姉さんあってこそ、という感じで、いい姉弟コンビだと思います。


青春小説としても、ミステリとしても楽しめる1冊。
人が死なない「日常の謎」系ミステリですが、本格テイストはきちんと感じられるのもうれしいところです。
☆4つ。