tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『カラフル』森絵都

カラフル (文春文庫)

カラフル (文春文庫)


「おめでとうございます、抽選に当たりました!」 生前の罪により、輪廻のサイクルから外されていた僕の魂は、天使業界の抽選によって再挑戦のチャンスを得た。それは、自殺を図った少年、真(まこと)の体にホームステイし、自分の罪を思い出さなければならない修行だった。天使のガイドのもと、真として過ごすうちに、僕は家族や友人の欠点が見えてくるようになって……。

またもや幽霊もの?
…と思ったらちょっと違っていました。
生前に犯したあやまちのために輪廻転生できなくなった魂だけの存在の「ぼく」が抽選に当たって他人の身体を間借りし、再チャレンジするチャンスを与えられるというお話。
いや〜、面白かったです。
森絵都さんらしい(?)えげつなさも多少あるのですが、そのえげつなさもあっさりと書いているからそんなに嫌な気分にならないし、なんてったって本作はユーモアたっぷり。
「ぼく」はなにやら生前に罪を犯したみたいだし、間借りした身体の持ち主である中学生の少年・真は睡眠薬で自殺を図っている。
真の家族は一見幸せそうな仲のよい家族に見えて、実は父親は利己的な性格で、母親はフラメンコ教室の講師と不倫をしていて、兄は何かと真をいじめる。
おまけに学校では友達もろくにおらず孤独だし、初恋の相手は中年おやじの愛人である。
こんなドロドロとした、書きようによってはとことん暗く、深刻な話になってしまいそうな設定ですが、森さんの筆致はあくまでもユーモアたっぷりでどこまでも明るく、救われます。
まず「ぼく」が再チャレンジすることになるきっかけが「抽選で当たった」というところからしてじわじわとおかしい。
一体どんな抽選なんだよ!と。
「ぼく」のガイド役の天使の名前が「プラプラ」というのだっておよそ天使らしくない名前で、なんだか気が抜けてしまいます。


真の身体に入りこみ、真として生活するうちに、「ぼく」は真の家族や友人と心をぶつけ合って、反発したり仲良くなったり理解しあったりして、真の生前には築くことのできなかった人間関係を築いていきます。
そして気付いたのは「人間はみなヘン」だということ。
本当に平凡で何の個性もない人間などいない。
自分の中の「みんなとは違う」色を恐れ、誰かが少しでも「みんなとは違う」色を見せると仲間はずれにしたりいじめたりするけれど、本当は人間の持つ色は人それぞれ。
いろんな色があっていいんだよ――そんな力強い励ましのメッセージが響いてきて、元気と勇気がわいてくる秀作でした。
☆5つ。