tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『冷たい校舎の時は止まる』辻村深月

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(上) (講談社文庫)


冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)

冷たい校舎の時は止まる(下) (講談社文庫)


ある雪の日、学校に閉じ込められた男女8人の高校生。どうしても開かない玄関の扉、そして他には誰も登校してこない、時が止まった校舎。不可解な現象の謎を追ううちに彼らは2ヵ月前に起きた学園祭での自殺事件を思い出す。しかし8人は死んだ級友の名前が思い出せない。死んだのは誰!?誰もが過ぎる青春という一時代をリアルに切なく描いた長編傑作。

あちこちの書評サイトさんで話題になっていたので気になっていた作家・辻村深月さんの作品を初読み。
ラノベっぽい感じなのかな…と勝手な先入観を持っていたのですが、意外としっかりミステリしていてうれしい驚きでした。


上下巻ともに500ページ以上ある長い物語ですが、その長さも忘れるくらい先が気になって、何かに引っ張られるように読みました。
雰囲気作りがうまいんですよね。
舞台は雪の日の学校。
外ではしんしんと静かに雪が降り積もる中、校舎は密室状態となり、時間も止まってしまうという奇怪な状況。
校舎に閉じ込められてしまった8人の学級委員たちの記憶から消えてしまった、2ヶ月前に自殺したクラスメイトの名前。
そして彼らは、1人、また1人と、姿を消してゆく…。
雪が降り積もる日は、他の音が消えて妙に静かで、暗い印象があります。
学校という場所も生徒や先生の姿が少なくなると、なんだか薄暗くて不気味な印象があるものです。
この2つが重なるとホラーの雰囲気は満点。
そんな中で次々に姿を消していく生徒たち。
この不可解な状況の中で一体何が起こっているのか、次には何が起こるのか、8人の生徒の記憶から消えてしまった「自殺した同級生」とは一体誰なのか。
気になって気になって、ぐいぐいと物語の中に引き込まれました。


雰囲気に加え、8人の高校生たちの人物描写も面白かったです。
最初のうちはちょっと8人の優等生ぶりが鼻につくところもあったのですが、それぞれがそれぞれの立場からお互いのことを思いやっていて、本当にいい子達なんですよね。
どんなに頭が良くて、スポーツができて、絵がうまくて…周囲の人がうらやむ天才であろうと、逆にちょっと不良っぽい子であろうと、それぞれ心の中には葛藤を抱えていたり、人知れぬ悩みがあったりするものだという点には素直に共感できました。
第十四章の「HERO」で描かれる8人のうちの1人、菅原の過去の話には思わず泣かされました。
8人分の物語を丹念に描いているところがとてもよかったと思います。


ミステリとしても、自殺した同級生の名前にはなんとなく思い当たったのですが、8人が閉じ込められた校舎に当然いるべき彼らの担任教師がいなかった理由には全く気付かず、驚かされました。
途中で「読者への挑戦状」っぽいものもあって本格ミステリ好きの心をくすぐってくれます。
でもこれってちゃんと論理的に正解を導き出せるのかな…?
ちょっと手がかり不足であるような気がしないでもないので、そこは少し残念でした。


ラストは青春小説の王道のような爽やか且つ少し切ない雰囲気で、読後感が良かったです。
おまけに解説が川原泉さんというのもちょっとうれしかったり…(笑)
なかなかよい読書ができました。
☆4つ。