tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『お探し物は図書室まで』青山美智子


2021年本屋大賞第2位!!
「お探し物は、本ですか? 仕事ですか? 人生ですか?」
仕事や人生に行き詰まりを感じている5人が訪れた、町の小さな図書室。彼らの背中を、不愛想だけど聞き上手な司書さんが、思いもよらない本のセレクトと可愛い付録で、後押しします。
自分が本当に「探している物」に気がつき、明日への活力が満ちていくハートウォーミング小説。

ある小学校に併設された「コミュニティハウス」。
そこにある図書室を舞台にした連作短編集です。
読んでみれば本屋大賞2位という順位の高さにも納得。
これは本が好きな人はみんな好きなタイプの物語ですね。
そりゃ本好きが集まる書店員の選ぶ賞で上位になるよ、という感じです。


コミュニティハウスというのは公民館みたいなものなのかな。
地域によってコミュニティセンターとか、いろいろ名前は異なるのではないかと思いますが、地域住民を対象にした講座やワークショップが開かれていたり、図書室があって本が借りられたりする公共施設です。
「羽鳥コミュニティハウス」の図書室に勤める司書の小町さんは大きな体型が特徴で、レファレンスコーナーに陣取っていつも黙々と羊毛フェルトをチクチクしています。
レファレンス利用者が訪れると、ちょっと言葉を交わしただけでその人物の悩み事や問題を見抜き、超スピードでパソコンのキーボードを叩いておすすめの本のリストを出してくれます。
そのリストには、利用者が探している本に加えて、一見まったく関係のない本が1冊紛れ込んでいるのですが、これが利用者のお悩み事を解決する最大のヒントになるのです。
まず小町さんのキャラクターがいいですね。
一見すると近寄りがたい雰囲気の人物ですが実は超有能で、人を見抜く目を持っている。
もちろん本に関する知識は豊富で、レファレンスのプロ。
こんな司書さんがいる図書室もしくは図書館、行ってみたいなという気にさせられます。


利用者の悩みはさまざまで、仕事にやりがいが感じられないとか、夢があるのに一歩を踏み出す勇気が持てないだとか、子どもはかわいいけど育児で仕事に制約が出るのがもどかしいとか、30歳を過ぎてもやりたいことが見つからないとか、定年退職して何をしたらいいのかわからないとか。
どれも多くの人に共通する悩み事だと思いますが、同じ悩みを持たない人でも共感できる描き方が巧みで、私など子どもがいないどころか独身なのに育児と仕事の両立に苦しむ女性にもらい泣きしてしまいました。
どの悩みも命にかかわるような深刻なものではないですが、非常に切実なだけに胸に響きます。
その悩みを解決するのが小町さんのレファレンスによって選ばれた、一見悩み事とは何の関係もなさそうな本ですが、読書好きで読書体験が多い人ほど、なぜ何の関係もなさそうな本が悩みの解決につながるのかが理解できるのではないでしょうか。
人生の悩みに対して解答や解決方法そのものずばりが書いてある本などめったにありません。
むしろ、まったく何の関係もなく、単なる気晴らしのつもりで読んだ本に、解決への糸口があったりするのです。
そして、その糸口を見出し、心に留めて、行動に移し、その結果として悩みから脱出するのは、本を読んだ人自身の力によるものなのです。
思わぬ本が、思わぬヒントや出会いや思い付きをもたらしてくれる。
そういうことあるよね、と読書好きならきっと納得できるはずです。


登場人物たちの悩み事が解決に向かってすっきり気持ちのいい読後感が最高でした。
連作短編集なので、最初の方に出てきた登場人物が後の章で再び登場してその後を知れるという趣向も楽しく、小町さんが選ぶ本は実在している本ばかりなのでちょっとしたブックガイドとしても楽しめます。
表紙の羊毛フェルトも可愛くて、思わず欲しくなってしまいました。
☆5つ。