tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『近藤史恵リクエスト!ペットのアンソロジー』


「ペット」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?愛犬家としても知られる作家・近藤史恵氏が「この方のペット小説を読んでみたい」と思った作家に執筆を依頼。盛り沢山な作品が揃いました。登場するのは犬、猫から爬虫類、鳥まで、中身も涙なくしては読めない作品から爆笑必至の作品までと、多種多彩。小説のなかで、生き物と寄り添ってみてください。

第一弾の『坂木司リクエスト!和菓子のアンソロジー』が面白かったので、このシリーズは全部制覇しようと決めました。
第二弾のテーマは「ペット」。
さまざまなペットが登場する短編小説が10編収録されています。
SFやファンタジーまであった「和菓子」ほどバラエティーに富んだ内容ではない印象でしたが、未読の作家さんも多く、それぞれの個性が楽しめる作品ばかりでした。
それでは、各作品の感想を。


「ババアと駄犬と私」 森奈津子
近所の「ババア」の犬の飼い方を憂える女性のお話。
森奈津子さんのイメージとはちょっと違った話で、それがいい具合にはまっていると思いました。
ホッとさせてくれる結末が好きです。
ちなみに登場する犬はシベリアンハスキー
一時期はやりましたが、最近あまり見かけないような…。


「最も賢い鳥」 大倉崇裕
事件の容疑者や被害者に代わってペットの面倒をみるという、警視庁の特別部署に勤める警官が、殺人事件の現場にいた被害者のペットを手掛かりに事件を解決に導くストーリー。
警察小説は和菓子のアンソロジーにも出てきましたが、わりとどんなテーマとでもなじむのかもしれません。
出てくるペットはヨウムというインコの仲間。
4歳児に匹敵する知能を持つという、非常に賢い鳥で、人の言葉をよく覚えてしゃべるそうです。
これは飼ってみたいなぁ…と興味を持ちました。


「灰色のエルミー」 大崎梢
若い男性会社員が女友だちから猫を預かったことから、思わぬことに巻き込まれ…という話。
女友だちが猫を預けた理由がカギとなるミステリです。
「最も賢い鳥」もそうですが、ミステリと動物は相性が良いのか、この後もミステリ仕立ての話がいくつも登場します。
ペットの猫はロシアンブルーのミックス。
犬派の私ですが、猫もかわいいですね。


「里親面接」 我孫子武丸
夫婦を装う男女2人組が、子犬の里親になるべく、仲介者の「面接」を受けますが…。
我孫子さんらしいどんでん返しありのミステリです。
ペットを飼う時には、ペットショップで買う、知人友人などから譲り受ける、などの方法が思い浮かびますが、最近はインターネット上に犬や猫の里親を募集する書き込みやサイトをよく見かけますね。
人間の都合に振り回される動物たちの姿には胸が痛みますが、1匹でも多くの犬や猫が優しい飼い主さんと出会えるならそれは素晴らしいことだと思います。


「ネコの時間」 柄刀一
しゃべるのがちょっと苦手な6歳の真子(まこ)のもとにやって来た1匹の子猫・みゃー。
やがて真子は成長していき、それにつれてみゃーも歳をとっていって…。
柄刀一さんもミステリ作家として知られる方なので、これもミステリ仕立てなのかと思いきや、涙なしには読めない感動の物語でした。
ペットを飼ったことのない私でも涙腺が緩むのですから、実際にペット、特に猫を飼っていた方は感情移入して号泣必至でしょう。
ペットのアンソロジーなのですから避けては通れないタイプの話だとは思いますが、それにあえてチャレンジした柄刀さんに拍手。


「パッチワーク・ジャングル」 汀こるもの
爬虫類を溺愛する夫の趣味に付き合わされている妻。
ところがある日、夫が何よりも大事なはずのペットたちの世話をほったらかして失踪し…?
ここまでは「かわいい」動物と鳥とが登場していましたが、この作品に出てくるペットは爬虫類!
しかもその爬虫類に与えるえさとして、虫も飼っています。
苦手な人には耐えられない世界かもしれませんが、ペットに対する愛情の深さは強く伝わってきます。
きっと作者自身の生き物への愛が反映されているのでしょうね。


「バステト」 井上夢人
取引先の骨董屋で、「バステト」という名の印象的な黒猫の置物に出会った青年。
その日から不思議なできごとが起こり始め…、というストーリー。
これもミステリなのかと思いきや、物語は意外な方向へ。
ちょっと背筋がぞくっとするような、ホラー的な怖さを持った作品でした。
こういう怖い話には、犬よりはどちらかというと猫の方が合うような気がします。
実は、私が猫より犬派なのも、そこのところに理由があったりします…。


「小犬のワルツ」 太田忠司
オルゴール修理屋の主人が出会った男の子、そしてペットの犬のお話。
ちょっと「ネコの時間」と似たところがあるかなと思います。
今はペットというよりは家族の一員として動物(生物)を迎える時代。
幼くしてその「家族」を失った子どもに対する、あたたかいまなざしが泣かせます。
こうやって子どもは「命」というものの意味を知っていくのですね。


「『希望』」 皆川博子
とある女性が飼うヤモリ・ムザムザにまつわる話。
なんともあらすじが説明しづらいですが、収録作品の中では最も強烈な印象が残りました。
ストーリーも文章も、他とは一線を画しているというか、さすが大御所は違う!と思わされます。
とても短い作品なのに、圧倒的な存在感。
脱帽です。


「シャルロットの憂鬱」 近藤史恵
最後はアンソロジストである近藤さん自身の作品。
警察犬を引退したメスのシェパードと、彼女を引き取った夫婦の話です。
警察犬というと賢くて勇敢なイメージですが、この作品に出てくる元警察犬のシャルロットはとても愛らしくて、読んでいるうちにどんどん好きになりました。
賢いからこそ、ずるさもある、というのはとてもよく分かる気がしました。
そんな人間臭さも、犬の魅力の一つなんだと思います。
この作品に関してはぜひシリーズ化してほしいなぁと思いました。


たくさんのかわいい(&ちょっと気持ち悪い)ペットたちの物語が読めて楽しかったです。
☆4つ。
第三弾は「本屋さん」ということで、これまた楽しみ。


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