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tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『坂木司リクエスト! 和菓子のアンソロジー』

和菓子のアンソロジー (光文社文庫)

和菓子のアンソロジー (光文社文庫)


「和菓子」をモチーフに、短編を一作書いていただけませんか?読書家としても知られる『和菓子のアン』の著者・坂木司が、今いちばん読みたい人気作家たちに執筆を依頼。日常の謎を描くミステリーから、壮大な世界観を展開するSF、心温まる優しい怪談まで、さまざまな読み味の作品が揃いました。疲れたときに読みたくなる、宝箱のような一冊。

坂木司さんの『和菓子のアン』はとても私好みの作品でした。
その続編(後日談?)が収録されていて、他にも坂木さんが選りすぐった作家さんたちの「和菓子」をテーマにした短編が9作品も読める、となれば読むしかないでしょう。
期待通り、とても素敵なアンソロジーでした。
「和菓子」をテーマにした小説自体、それほどないように思いますが、そこをあえて和菓子しばりでアンソロジーを編もうというその発想自体が面白いなぁと思います。
思いついた坂木さんにも、その案に飛びついた編集者さんにも、グッジョブ!と言いたくなりました。
ミステリやらSFやら怪談やら、ジャンルも非常に多彩で、和菓子しばりでありながらよくこんなバリエーションが出たものだと、作家さんたちの個性と発想力に感服です。
では、1作品ごとに簡単な感想を。


「空の春告鳥」 坂木司
トップバッターは言いだしっぺの坂木さん。
『和菓子のアン』の主人公・杏子(アンちゃん)が休日に自分が働いているのとは別の和菓子屋で遭遇した奇妙なできごとの謎を描いた作品です。
和菓子の薀蓄話はやっぱり面白いですね。
日本人の生活と日本文化に密接に結びついている和菓子の世界は奥深いなぁと改めて感心しました。
アンちゃんと立花さんが仲良くお出かけする様子も楽しげで、ほっこりしました。


「トマどら」 日明恩
何といきなりの警察小説で、坂木さんの作品とのギャップにびっくり。
硬派な印象の警察と、甘い和菓子との組み合わせが意外ですが、これが思ったよりも相性が良い感じで、そのことにも驚かされました。
登場する和菓子はどら焼きですが、ちょっと変わり種で、味わってみたいなぁという気になります。
ストーリーも心温まるものでよかったです。


「チチとクズの国」 牧野修
いきなり緊迫した場面から物語が始まります。
和菓子の登場の仕方も意外。
その和菓子は葛で、別に珍しいものではないのですが、そのありふれた和菓子が意表を突く形で登場するのが面白かったです。
これまた最後は「よかった」と思える、心温まる作品でした。


「迷宮の松露」 近藤史恵
舞台はモロッコ、もはや日本ですらない場所で、登場するのは伝統的な京菓子「松露(しょうろ)」。
イスラム文化圏と和菓子…なかなか意外な取り合わせです。
しかもその和菓子が、京都以外ではあまり知られていなさそうな松露というのも面白いなと思いました。
私も京都育ちなので、松露はもちろん食べたことがありますが、あのお菓子が○○○を模したものだとは知りませんでした。
やっぱり和菓子の世界は奥深い、とここでも思い知らされました。


「融雪」 柴田よしき
とある高原のカフェが舞台の話です。
最近は老舗の和菓子店がカフェを開設していたりもするので、案外カフェと和菓子というのはそう遠くない関係になってきているのかもしれません。
登場する和菓子は淡雪羹。
でも、この作品は何と言ってもカフェで提供される料理の数々がとてもおいしそうなのです。
読んでいて一番お腹が減ったのがこの作品でした。


「糖質な彼女」 木地雅映子
引きこもり少年が大ファンの元アイドルと意外なところで遭遇し、思わぬ展開により一緒に和菓子を作ることになるという話。
和菓子作りの様子が楽しそうで、私もちょっとやってみたいかも…。
和菓子は見て楽しい、食べて楽しい、作っても楽しいと、三拍子そろっているんだなと思いました。
病院の精神科が舞台で、ちょっと重い雰囲気もありつつ、文体が軽めなのでとても読みやすかったです。


「時じくの実の宮古へ」 小川一水
これはジャンルとしてはSFになるのでしょうか。
温暖化が進んだことが原因で荒廃した日本を旅する父子が、旅の途中で出会った光景を和菓子で表現しながら、和菓子の街「宮古」を目指すという話です。
何だかスケールが大きそうな話だと思いながら読み進めていくと、「宮古」とは私にとって身近な場所のことでした。
とは言え、そこは荒れ果てた廃墟と化しているというのが物悲しいのですが…。
「和菓子を求める旅」という発想がなんとなくファンタジーRPG風で面白かったです。


「古入道きたりて」 恒川光太郎
これは何とも不思議な、ちょっと怖いお話。
「古入道」とは、怪物のような、幽霊のような、妖怪のような…夜の闇の中、人気がない時に現れる巨人なのです。
怪談めいていてこの季節にはぴったりかもしれませんが、怖すぎるというほどでもなく、適度な不気味さ。
でも主人公があまり怖がっていないので、それにつられて私も古入道を見てみたいような気もしました。
ちなみに登場する和菓子は、おはぎ。
作品の時代背景を考えると、何よりのごちそうだったのではと思えて、普通のおはぎが特別なもののように感じられました。


「しりとり」 北村薫
非常に北村さんらしい、和菓子をキーにした暗号ものミステリです。
さすが北村さん、暗号もよく考えられているし、和菓子にふさわしい風流と、人間の心の機微が感じられます。
登場する和菓子は葛ざくらと黄身しぐれ。
葛ざくらは水まんじゅうを桜餅のように桜の葉で包んだもの…でよいのでしょうか?
黄身しぐれはどんなものかよく分からず検索してしまいました。
どちらも食べたことがないと思うので、今度見かけたら買ってみようと思いました。


「甘き織姫」 畠中恵
これまた謎解きもの。
大学時代のサークル仲間が集まって、仲間の一人が一目惚れした女性に対して贈った和菓子の意味と、それに対して女性の側がお返しに贈ってきた和菓子の意味とを考えるというものです。
和菓子が結ぶ男女の縁。
雅でいい感じですね。
探偵役(?)の若奥さんも可愛らしく、全体的に微笑ましい雰囲気の作品でした。


和菓子好きにはもちろん、別に和菓子にこだわらなくても、いろんな作家さんの作品が読みたいという人にはうってつけの短編集だと思います。
☆4つ。
ちなみに今月は「ペットのアンソロジー」が、来月は「本屋さんのアンソロジー」が刊行される予定とのこと。
動物も本屋さんも大好きなので、ぜひ読んでみたいと思います。