tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『青い鳥』重松清

青い鳥 (新潮文庫)

青い鳥 (新潮文庫)


村内先生は、中学の非常勤講師。国語の先生なのに、言葉がつっかえてうまく話せない。でも先生には、授業よりももっと、大事な仕事があるんだ。いじめの加害者になってしまった生徒、父親の自殺に苦しむ生徒、気持ちを伝えられずに抱え込む生徒、家庭を知らずに育った生徒―後悔、責任、そして希望。ひとりぼっちの心にそっと寄り添い、本当にたいせつなことは何かを教えてくれる物語。

殺人という罪を犯した3人の中学生を描いた『空白の叫び』の次に読んだのが、中学生の孤独な心に寄り添い大切なことを伝えようとする先生を描いたこの『青い鳥』だったというのは、偶然だったのになんだか奇妙に繋がっているようで、私自身この作品の主人公である村内先生に救われたような気持ちになりました。
こういうことがあるから読書は楽しいんですよね。
あの本もこの本も、きっとどこかで繋がっているから。


中学校の非常勤講師として国語を教える村内先生は、吃音があって上手く話すことができません。
けれども、うまくしゃべれないからこそ、村内先生は本当にたいせつなことしかしゃべらないのです。
中学生、とひとことで言っても、実際にはいろいろな子どもがいます。
家族や、先生や、友達との人間関係に悩み苦しむ子。
伝えたい気持ちがうまく言葉にできない子。
みんなと同じ方向を向くことがどうしてもできない子。
「ふつう」や「あたりまえ」からはみ出してしまう子。
そんな子どもたちのひとりぼっちの心に、言葉は少なくてもそっと寄り添う、それが村内先生の、特別なお仕事。

でもなあ、ひとりぼっちが二人いれば、それはもう、ひとりぼっちじゃないんじゃないか、って先生は思うんだよなあ。
先生は、ひとりぼっちの。子の。そばにいる、もう一人の、ひとりぼっちになりたいんだ。だから、先生は、先生をやってるんだ。


364ページ 6〜9行目

ああ、『空白の叫び』の3人の少年たちも、こんな先生に出会っていたら、罪を犯すことはなかっただろうに…。
そう思うと泣けて泣けて仕方がありませんでした。


いや、罪を犯す子どもたちだけじゃない、村内先生のような大人を必要としている子どもたちは、世界中に大勢いるのですよね。
ただそっと子どもたちの心に寄り添うことが、どんなに難しいか。
たいせつなことを伝えることが、どんなに難しいか。
でも難しいからと言って逃げてはいけない。
教員という職業の人だけじゃない、親として、地域の人間として、子どもたちを見守る全ての大人が、努力していかなければならないことなのだと思います。
たいせつなことを伝えるのに、雄弁さは必要ないと、村内先生のつっかえつっかえ話す姿が教えてくれました。
私も、言葉ではなく心でたいせつなことを伝えられる大人になりたいと心から思いました。


連作短編集という形で非常に読みやすい作品でした。
一番最後の「カッコウの卵」は途中から涙が止まりませんでした。
さすが重松清さん、今回もしっかり泣かせてくれます。
願わくば、ひとりでも多くの「ひとりぼっち」の子どもたちが、本当にたいせつなことだけを伝えてくれる先生と出逢えますように…。
☆5つ。
ところで、教室の黒板のある方角は法律で決まっていてどの学校でも必ず同じ、なんて初めて知りました。
そういわれてみればそうだったっけなぁ…。