tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『99%の誘拐』岡嶋二人

99%の誘拐 (講談社文庫)

99%の誘拐 (講談社文庫)


末期ガンに冒された男が、病床で綴った手記を遺して生涯を終えた。
そこには八年前、息子をさらわれた時の記憶が書かれていた。
そして十二年後、かつての事件に端を発する新たな誘拐が行われる。
その犯行はコンピュータによって制御され、前代未聞の完全犯罪が幕を開ける。
第十回吉川英治文学新人賞受賞作。

岡嶋二人」というのは井上泉さん(現在は井上夢人のペンネームで活躍されています)と徳山諄一さんという2人の作家による共作ペンネームです。
エラリー・クイーンと同じですね。
残念ながらこのコンビは15年も前にすでに解消されていますが、いまだに「岡嶋二人」名義の作品は高い人気があるようで、この『99%の誘拐』は「この文庫がすごい!」の2005年版で1位になっています。
しばらく積読してたのですが、ようやく読みました。
…遅い?


さて、この作品の売りは、「ハイテクを駆使した完全犯罪」と作品全体に漂う「疾走感・緊迫感」でしょう。
この作品が書かれたのはまだ昭和の時代です。
その頃に読んだ人たちにとって、この作品は新鮮な驚きに満ちていたのではないでしょうか。
当時はまだ一般人にはなじみの薄かったパソコン通信ネットワークゲーム、無線通信などといったハイテク技術がふんだんに盛り込まれているのですから。
今となっては多少時代遅れの感があるのは否めません。
パソコン通信が姿を消してすでに久しく、時はブロードバンド全盛です。
それでも、この作品に登場するハイテク技術が当時の人々にとっては驚きに値したであろうことは容易に想像がつきます。
今読んでもすごい技術だなと思わされるところもあります。
「そううまくコンピュータで制御した犯罪が実行可能なのか」と突っ込みたくなる箇所もあるにはありますが、それでもこの完全犯罪の見事に警察を煙に巻く痛快さは色あせることはありません。
また、文章が非常に上手く、展開にもスピード感があり、読ませます。
読み終わった後には爽快感もありました。
ミステリの謎解きの意外性という点では弱く、私は物語前半で最初の誘拐事件の真犯人の予測がついてしまったのですが、この作品はミステリとして、というよりはジェットコースターサスペンスとして、その疾走感と緊迫感を味わうべき作品なのだろうと思いました。
時代が移り変わって技術が古びたとしても、作品の持つ爽快な読み心地は決して変わることはないでしょう。
☆4つ。