tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『天国の本屋 恋火』松久淳+田中渉

天国の本屋 恋火 (小学館文庫)

天国の本屋 恋火 (小学館文庫)


ある日突然、ピアニスト健太は謎のアロハシャツ男ヤマキに声をかけられ、天国の本屋に短期バイトとして連れてこられた。
そこで彼は、ある女性ピアニストに出会う。
一方、飴屋の娘香夏子は商店街復興のため、花火大会開催に向け奔走していた。
そこで彼女は「その花火を見ればふたりの恋は成就する」という伝説の花火師に出会う。
天国と現世。
ふたつのストーリーが同時進行するなか、花火大会当日、ついにある“奇跡”が訪れる―。
竹内結子主演映画話題のベストセラー原作、待望の文庫化。
奇跡のラブストーリーを彩るカラーイラストも多数掲載。

現在映画が公開中の『天国の本屋 恋火』(松久淳+田中渉)。
残念ながら大ヒット中の『世界の中心で、愛をさけぶ』に押されてあまり話題になっていないようですが、原作を読む限りはいいお話だと思います。


前作『天国の本屋』で登場した、天国の人々のための本屋「ヘブンズ・ブック・サービス」。
この本屋に今回バイトにやってきたのは、リストラされたピアニスト。
いつの間にかピアノを弾く本当の喜びを忘れた彼は、天国の本屋である美しい女性に1冊の本の朗読を頼まれる。
朗読の途中、突然耳を押さえて苦しむ彼女。
一体なぜ…?
一方、現実世界では、1人の若い女性が寂れた商店街を活気付けるため、昔行われていた花火大会の復活を思いつく。
以前の花火大会で、一緒に見た男女が深い仲になれるという「恋する花火」が打ち上げられていたことを知り、彼女は「恋する花火」の作者を探そうとする。


前作同様、物語のところどころに挿入される童話や戯曲など古今東西の名作からの引用がなされていますが、これが非常に効果的。
思わずその作品を手にとって読んでみたい衝動に駆られるのです。
個性的な店員たちがいる、朗読サービスのある本屋。
読書好きの人には間違いなく魅力的な本屋だと思います。
実際にこんな本屋があったらいいのに…と思わずにはいられません。
前作で重要な役割を果たしたあの名作童話がさりげなく登場するのも心憎いですね。


ですが、今作の見どころはやはりラブストーリー的側面でしょう。
かつて伝説の「恋する花火」を一人で作り、打ち上げていたという若い花火職人。
彼が花火作りをやめてしまった理由が、この作品の大きな鍵になっています。
その理由は悲しいものでした。
けれども、花火大会を復活させようとする女性と、リストラされたピアニストの若い二人の男女の力で物語は感動的な結末を迎えます。
そして最後にはもう一つの物語が始まることを予感させて終わります。
非常に読後感がさわやかですがすがしい。
心温まるラブストーリーであり、気軽に読める佳作だと思います。