tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

2019年6月の注目文庫化情報


あっという間に夏っぽくなってきました。
そろそろ夏の文庫フェアの話も聞こえてくる頃でしょうか。
今月の新潮文庫はフェア対象なのかな?
新潮文庫は月末に発売日がありますが、これは次月 (今月だと7月) 扱いの新刊なんですよね。
ラインナップ的には角川文庫も豪華なので、もしかしてこれもフェア対象かなとにらんでいます。
今年はどんなノベルティが登場するのでしょう。
最近はどうも各社ワンパターンな印象がしてきたので、ここらで少し目新しいものが出てきてもいいのになと思います。


個人的には宮部さん、米澤さん、湊さんあたりは読むこと決定。
あとは近藤さんの『シャルロットの憂鬱』はアンソロジーで少しだけ読んだのですが、引退した警察犬のお話ということで、私好みのにおいがプンプンします。
朝井さんの『何様』は直木賞受賞作『何者』の続編ですね。
『何者』はとても面白かったから、これも読みたいです。
今月も面白そうな本がいっぱいで、楽しみ楽しみ。

『精霊の木』上橋菜穂子

精霊の木 (新潮文庫)

精霊の木 (新潮文庫)


環境破壊のため、地球が滅亡し、人類は様々な星に移住した。シン少年が住むナイラ星は、人類が街を作り始めてから二百年を迎えようとしていた。そんなある日、従妹のリシアに、先住異星人ロシュナールの特殊能力が目覚める。そして、失われた<精霊の木>を求めて、異世界からこの地を目指す<黄昏の民>の存在を知った二人は、過去と現代に潜む謎の真相を追い求める。しかし、過去の歴史を闇に葬ろうとする組織が動き出す。シンとリシアの運命は──「守り人」シリーズ著者・上橋菜穂子のデビュー作が、三十年の時を経て文庫化!

「守り人」シリーズ、『獣の奏者』、『鹿の王』の上橋菜穂子さんのデビュー作です。
ベテランの域に入った作家さんのデビュー作がこのタイミングで文庫化というのはけっこう珍しいのではないでしょうか。
作家デビュー30周年を記念しての企画のようですが、おかげで上橋さんの作家としての原点に触れることができて、感謝しています。


あらすじを読んでびっくり、まさかのSF!?と思いましたが、どちらかというとファンタジー色のほうが強いところが上橋さんならではでしょうか。
環境破壊により滅亡した地球から、宇宙のあちこちの惑星へと移住した地球人たちの物語です。
なかなかスケールの大きな設定で、いくらでも話を広げようと思えば広げられそうですが、物語の舞台は「ナイラ星」という場所に限定され、そこに住む少年シンと、シンの従妹リシアを中心に話が進みます。
シンとリシアは実はナイラ星の先住民であるロシュナールと地球人との混血で、ある日リシアは自分の先祖の記憶を夢に見るという特殊能力に目覚め、そこからシンとリシアの冒険が始まります。
少年少女を主人公にした冒険ファンタジーというのは定番であり王道ですね。
はじめはちょっと頼りない印象のあるシンが、冒険を通じて成長するというのも王道の展開です。
独自の設定や用語もたくさん出てきますが、ストーリー展開自体はシンプルでわかりやすいので、すんなりと物語の世界に入っていけました。
現代よりかなり未来の設定のはずですが、そこまで文明が進んでいる感じがしないのは、パソコンもまだ普及せずスマホも存在しなかった30年前に書かれた作品だからでしょうか。
それでも面白いガジェットがあれこれと登場し、個人的には「完全睡眠装置 (パーフェクト・スリーパー)」に大いに興味を持ちました。
あまり作中で詳しい説明がされていないのですが、この装置をつけて寝ると夢を見ないようです。
夢も見ずにぐっすり眠れて疲れが取れるのであれば、ぜひ試してみたいと思いました。


ところが、未来であっても地球人のやっていることはあまり変わっていないようで、ナイラ星に移住した地球人の政府はロシュナールに関しての歴史の真実を隠蔽し、嘘の歴史を人々に信じこませていることが判明します。
このような歴史改変や歴史修正主義は「守り人」シリーズでも登場し、批判的に描かれていました。
デビュー作でもすでにそれをテーマに書いているというところに、上橋さんのゆるぎない信念と主義主張が感じられます。
ファンタジーの体裁をとっていても、本当に書きたいことは現実に存在する問題であり、上橋さんにとってのそれは歴史を権力者の都合のいいように歪めてしまうこと、なのですね。
あとがきで歴史を歪めて伝えていることの例としてアメリカの西部劇を挙げておられますが、これはオーストラリアの先住民研究をされている上橋さんらしいなと感じ、まだ研究の道へ進む前の上橋さんがこのような作品を書かれていたことに、ブレのない人だなという感想を持ちました。
また、ナイラ星の自然描写がとても美しくて、地球はすでに環境破壊によって滅亡したという設定との皮肉な対比が興味深いです。
決して高らかに環境保護を訴えている作品ではありませんが、裏テーマとして環境問題への意識喚起の意図が感じられ、児童文学としてはなかなか重めの硬派な作品だと思います。


文体にもストーリー展開にもさすがに若さがあり、最近の上橋さんとの作品とは印象が異なる部分もありましたが、根っこの部分は変わっていないということが感じられて、ファンとしてはうれしくなりました。
デビュー30年を迎えた記念に原点を振り返るというのはなかなかよい企画ではないでしょうか。
新作ももちろん楽しみですが、旧作を味わう喜びがあるというのも楽しくうれしいことです。
☆4つ。

KOBUKURO 20TH ANNIVERSARY TOUR 2019 "ATB" @大阪城ホール (5/29)

*演奏曲目に関するネタバレはありません。


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3月の長野公演から2か月、私の地元にしてコブクロの聖地・大阪城ホールの公演に参加してきました。
ホールからアリーナへと会場規模が大きく変わったので、ステージ構成や演出がパワーアップしたのはもちろんのこと、ライブパフォーマンス自体もかなりパワーアップしていて、何度も感動で胸がいっぱいになりました。
なんといってもこの日はコブクロふたりとも非常に調子がよかったですね。
特に黒田さんがすごかった。
いや、この人は調子悪そうなときでも最終的には力技で「すごかった」と思わせるボーカリストなのですが、今回は本当に非の打ちどころがないほどすごかったなぁ。
低音の深みある響きが素晴らしいのはいつものことですが、高音も無理に出す感じがまったくなく、楽に自然に出ていると感じました。
激しさを感じるような力強い歌声から、そっと聴衆に語りかけるような優しい歌声まで、緩急のつけ方も絶妙でした。
ある曲では時折頬のあたりを手で拭っているのが見えたのですが、あれはもしかして泣いていたのかな。
そこまで感情が乗った歌声に、小渕さんが描く美しいメロディーラインと歌詞の世界があわさると、そりゃもう感動するなっていう方が無理ってものです。
小渕さんは最初のうちこそ多少苦しそうなところもありましたが、黒田さんの絶好調ぶりに引っ張られてか、ライブが進むにつれてどんどん調子が上がっていっていました。
後半のほうで歌われたある曲のユニゾンは、小渕さんと黒田さんの声が声量も何もかも完全に一致していて鳥肌が立ちました。
コブクロといえばハモリが美しいデュオというイメージを持っている人が多いと思いますが、私はユニゾンも最高だと思っています。
でも、この日のユニゾンは今まで聴いた中でも一番よかったと感じました。
本人たちも調子のよさを自覚していたからこそだと思いますが、即興的なアレンジを入れたり、間奏でマイクを外してフェイクを入れてみたり、自由に楽しそうに歌っていて、それがとてもうれしかったです。


すごいのはコブクロばかりではないのが、コブクロのライブのよいところです。
前回の長野公演の感想で、「すごいところ」を3つ挙げましたが、今回のライブに参加して、あと2つ付け加えなきゃなぁと思いました。
まずひとつ目は、光の使い方のうまさです。
コブクロのライブの照明は本当に毎回とてもきれいです。
今回はいろんな形や色のライトを使って、キラキラと鮮やかで華やかなステージを見せてくれました。
ライトの数も多いし、色数も多いのに、うるさくなく歌の世界を邪魔もしないのがすごいなと感心します。
前回の感想にも書いたようにビジョンに流れる映像も素晴らしく、演奏・照明・映像のすべてが完璧に組み合わさることによって、ライブというひとつの作品が完成するのだということを実感しました。
そしてもうひとつは音響です。
この日のライブは音のバランスがとてもよかった。
もちろんコブクロの調子がよかったということもあるのでしょうが、バンドの音とのバランスがよくて、長時間大きな音を浴びたわりには耳の疲れがほとんどありませんでした。
コブクロライブの音響は、公演を重ねるごとにだんだんよくなっていっているような気がします。
PAさん、すごいなぁ。


ということで、前回に引き続き、いや前回以上の、すごいライブを堪能しました。
サプライズでコブクロ事務所のミノスケ会長の誕生日祝いもあり (誕生日は5月6日で少し前なのですが、会長が来場する日ということでこのタイミングになったようです)、ステージに上げられて泣きながら挨拶する会長の姿を見ていると、同様にステージ上で号泣されていた10周年ライブを思い出して、もらい泣きしそうになりました。
最初から最後まで、とてもいいライブだったと思います。
次は7月にツアーファイナルの京セラドーム大阪公演に参加予定ですが、これ以上すごいライブになったらどうしましょう……って、本当に毎回あっさりと自分たちの最高を超えてくるふたりだからなぁ。
次回も楽しみです。




<おまけのMCレポ>
【パクリ疑惑】
小渕さん (以下「コブ」):今日は529日、6時30分開演で、「5296」ですよ!!すごない!!??こんな日のチケットとるなんて今日のお客さんは持ってるね~!!
黒田さん (以下「クロ」):おいおいおい!!ヨッシーさん (ピアノ) に謝れや!それリハの時にヨッシーさんが言ってたやつやろ、5月29日6時半で「コブクロ半」やって。いかにも自分で思いつきましたみたいな顔して言うな!
コブ:これ聞いた瞬間に絶対ステージで言おう~と思って。


【計算ミス疑惑】
コブ:大阪城ホールでの公演は、正しく計算した結果、今日が45回目だということがわかりました~!!
クロ:こらこらこら!!昨日のライブでは42公演目ですって言ってたやろ。何ちゃんと訂正もせんと「正しく計算した結果」なんてごまかしてんねん!!
コブ:(泣き真似で) だってスタッフが「42回目」って言ったんやもん……。


【恐怖のメール】
コブ:関西以外から来た人~!?九州から来た人いますか?……えっ、九州から平日のライブ来たの?仕事休んで?メールとかチェックしなくて大丈夫??
クロ:「もう一生休んでていいです」ってメールが来てたりして。
コブ:なんでそんな恐怖のメールやねん!!


【黒田さんの秘密】
クロ:僕ね~、今までライブ終わった後めっちゃ疲れてたんですよ。でもその原因がわかったんです。糖分不足やってん。ステージでラムネ食べるようにしたら全然疲れへんようになった。
コブ:何ひとりでお祭りの子どもみたいなことしてんの?
クロ:そのラムネちゃうわ、ブドウ糖固めたラムネみたいなやつ。それで今まではライブ終わってからチャーハンと焼きそばと担々麺と酢豚とから揚げと…… (延々10個くらいメニュー名が続く) 食べて、さらに夜中に菓子パン食べてたんですよ、頭おかしいでしょ?でも今はチャーハンと焼きそばと担々麺くらいで済むようになった。


●関連過去記事●
tonton.hatenablog.jp