- 作者: 加納朋子
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2004/04
- メディア: 文庫
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事故で夫を失ったサヤは赤ん坊のユウ坊と佐佐良の街へ移住する。
そこでは不思議な事件が次々に起こる。
けれど、その度に亡き夫が他人の姿を借りて助けに来るのだ。
そんなサヤに、義姉がユウ坊を養子にしたいと圧力をかけてくる。
そしてユウ坊が誘拐された!
ゴーストの夫とサヤが永遠の別れを迎えるまでの愛しく切ない日々。
連作ミステリ小説。
サヤの夫は、幼い息子とサヤを残して交通事故で逝ってしまった。
しかし、彼は赤ん坊を抱えてただ泣くばかりの弱々しげなサヤを放っておけず、幽霊としてこの世にとどまることに。
そして、サヤがピンチになったとき、どこからか「ささらさや…」と音がして、自分の姿を見ることができる誰かの身体を借りた夫がサヤの前に現れ、見事に謎を解く。
まさに、加納朋子さんの持つ魅力をめいっぱい詰め込んだような作品です。
コメディータッチで書かれてはいますが、何気ない言葉の一つ一つに、加納朋子さんの魔法がかけられています。
その魔法によって、読者は微笑んだり、泣いたり、ちょっぴり腹を立てたり。
特に私が好きなのは、サヤの夫の言葉である、「馬鹿っサヤ」。
泣き虫で、方向音痴で、馬鹿がつくほどのお人よし。
そんなサヤを、夫はあきれながら、イライラしながらこう呼んで、助けに現れるのです。
これほどまでに愛に満ちた言葉が他にあるでしょうか。
この言葉を口にするとき、サヤの夫はきっと、哀れむような、悲しむような、切ないような、でも誰よりも深い愛情を込めた目でサヤを見ているに違いないのです。
死んだ夫に助けられながら、サヤは個性豊かな佐々良(ささら)の人々と仲良くなり、いくつかの試練を乗り越えて少しずつ強くなっていきます。
やがては夫との永遠の別れがやってくるのですが、それは決して悲しいだけのものではありません。
それはサヤが強く生きていくことができるようになったという証なのですから。
最後の別れに、加納朋子さんはまた一つ魔法をかけています。
悲しいのではなく、切ないだけでもない、あたたかい感動がこみ上げて、やはり泣かされてしまいました。
加納朋子さんにかけられた魔法は、まだまだとけそうもありません。