tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『秋期限定栗きんとん事件』米澤穂信

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)

秋期限定栗きんとん事件〈上〉 (創元推理文庫)


秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)

秋期限定栗きんとん事件 下 (創元推理文庫 M よ 1-6)


あの日の放課後、手紙で呼び出されて以降、ぼくの幸せな高校生活は始まった。学校中を二人で巡った文化祭。夜風がちょっと寒かったクリスマス。お正月には揃って初詣。ぼくに「小さな誤解でやきもち焼いて口げんか」みたいな日が来るとは、実際、まるで思っていなかったのだ。―それなのに、小鳩君は機会があれば彼女そっちのけで謎解きを繰り広げてしまい…シリーズ第三弾。

待ちに待った「小市民シリーズ」の3作目。
前作『夏期限定トロピカルパフェ事件』で2作目にしていきなり「起承転結」の「転」を持ってくるという驚きの展開を見せた本シリーズ。
3作目は一体どうなるのかと期待半分、不安半分でしたが、とても面白かったです!


今回、ともに「小市民」を目指す仲間である小鳩君と小佐内さんにそれぞれ恋人ができ、一見バラ色の高校生活を送り始めた2人。
でも結局は事件に首を突っ込んでしまうところに2人の宿命のようなものを感じました(と書くと大げさですが…)。
2人とも無理に「小市民」なんて目指さなくていいんじゃないの〜と前作でも思っていましたが、今作ではさらに強く思いました。
謎に遭遇するとそれを解かずにはいられない小鳩君と、可愛らしい外見に似合わない黒い部分を持った小佐内さん。
もう、それが2人の個性なのだから。
高校生にもなってからそれを矯正しようとしても遅すぎるのです。
下手に「小市民を目指している」なんて言うと、ちょっと「小市民」を小ばかにしているような印象も与えかねませんしね。
2人にはこれからもわが道を突き進んでほしいです。


今回の事件は連続放火事件と、日常の謎を扱っていた前作・前々作に比べてちょっと事件性が強くなっています。
その事件を追う新聞部員・瓜野君と小鳩君の2人の視点で交互に物語が展開していきます。
新聞部員として名を上げたくて、また小佐内さんにいいところを見せたくて、どんどん暴走していく瓜野君と、冷静に、少しずつ事件に介入していく小鳩君との対比が楽しいです。
小佐内さんも何やら怪しい動きを見せ、どのような結末を見せてくれるのかと気になって、特に下巻はほぼ一気読みでした。
特に派手なトリックがあるわけでもないし、あっと驚くどんでん返しがあるわけでもないのですが、それでもラストに向けて高まっていく疑惑と落ち着くべきところに落ち着く納得の結末で、非常に読ませてくれます。
小鳩君と小佐内さん、それぞれの恋愛の行方が事件の進行に絡んでくる展開も、今までの米澤作品にはあまりなかったもので楽しめました。
小鳩君の鈍感さには少しイライラもしましたが…でもだからこそああいう結末になるのでしょうね。
ラストはなんだかニヤニヤしてしまいました(怪しい…)。


そうそう、相変わらず小佐内さんの大好きなスイーツもとても美味しそうです。
特にタイトルにもなっている「秋期限定栗きんとん」は、栗好きの私としてもぜひ食べてみたい一品でした。
次回4作目がいよいよ完結編ですよね。
冬期限定のスイーツは一体どんなお菓子でしょうか。
今からとても楽しみです。
☆4つ。