tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『聖女の救済』東野圭吾

聖女の救済 (文春文庫)

聖女の救済 (文春文庫)


資産家の男が自宅で毒殺された。毒物混入方法は不明、男から一方的に離婚を切り出されていた妻には鉄壁のアリバイがあった。難航する捜査のさなか、草薙刑事が美貌の妻に魅かれていることを察した内海刑事は、独断でガリレオこと湯川学に協力を依頼するが…。驚愕のトリックで世界を揺るがせた、東野ミステリー屈指の傑作。

ガリレオシリーズ6作目、長編としては2作目でしょうか。
東野さんの代表的シリーズならではの安定性に加え、個人的に長編の方が好きなこともあり、非常に楽しんで読みました。


ガリレオシリーズは、犯人があらかじめ明らかになっており、探偵役の湯川がどのように犯人を追い詰めていくかが焦点の、いわゆる「倒叙ミステリ」の形式をとっています。
今回の犯人は、被害者の資産家の妻。
人気パッチワーク作家でもあるこの美しい夫人には、夫を殺害する動機はあるものの、鉄壁のアリバイがありました。
夫が薬物で殺された当時、彼女は実家のある札幌へ帰っており、毒物を混入する機会はなかったはずなのです。
湯川と草薙・内海の両刑事がこのアリバイをどのように崩していくかが読みどころです。


さすが東野さん、やっぱりうまいですね。
無駄な描写がなくテンポよくストーリーが進み、謎の散りばめ方も、少しずつ謎の真相が明らかになっていく過程も、登場人物の心情描写の挟み方も、すべてが緻密に計算されているように感じられます。
読んでいてどんどん話に引き込まれていき、すべて東野さんの思い通りに真相や展開を想像させられている気がします。
読者は東野さんの掌の上…ちょっと悔しいくらいです(笑)
湯川の科学に基づいた論理的な推理についていけないのも悔しいですが、このシリーズについては湯川の頭脳の優秀さと、その頭脳によって解き明かされる真相における驚きを楽しむものだと思っています。
今回のトリックはちょっと常識では考えられないような、湯川曰く「完全犯罪」です。
そのトリックを仕掛けた犯人は、私に言わせれば「ここまでやるか」という感じですが、『容疑者Xの献身』も「そこまでして…」と思わせるものだったなと思い出し、科学では解き明かせない人間心理の不条理さがこのシリーズの裏のテーマなのかなと思いました。


ラストでタイトルの意味が分かってなるほどと思わせられるのも、『容疑者Xの献身』と似ているなと思いました。
『容疑者X』ほどのインパクトはなかったものの、この作品の犯人もトリックも動機も十分に練られており、驚きに値するものです。
そういえば文庫版の表紙はパッチワークをイメージしたものなのですね。
読了後に気付いてなるほどなと思いました。
細かいところまで丁寧に作られた1冊だと思います。
☆4つ。