tontonの終わりなき旅

本の感想、ときどきライブレポ。

『暗黒館の殺人』綾辻行人

暗黒館の殺人(一) (講談社文庫)

暗黒館の殺人(一) (講談社文庫)


蒼白い霧の峠を越えると、湖上の小島に建つ漆黒の館に辿り着く。忌まわしき影に包まれた浦登家の人々が住まう「暗黒館」。当主の息子・玄児に招かれた大学生・中也は、数々の謎めいた出来事に遭遇する。十角塔からの墜落者、座敷牢、美しい異形の双子、そして奇怪な宴……。著者畢生(ひっせい)の巨編、ここに開幕!

場所をとるので1巻しかリンク張ってませんが、実際は全4巻(しかも全部けっこう分厚い)の大長編です。
待望の綾辻さんの「館シリーズ」続編。
シリーズ中最大のボリュームであり、集大成的な作品です。
…が、ファンの期待に反して(というか期待が大きすぎたのか)、この作品の評価はあまり芳しくなかったみたいですね…。
ですが私はけっこうこの作品好きです、とここでこっそり(?)主張したいと思います。


綾辻さんの「館シリーズ」といえば、毎回登場するのは出版社勤務の江南(かわみなみ)孝明と作家・鹿谷門実(ししやかどみ)のコンビがおなじみ。
この2人は探偵役をしたり、その助手役をしたりもするけれど、今回の2人はそのどちらの役も果たしません。
鹿谷門実に至っては最後の最後にほんの少し登場するだけ。
おなじみの探偵役としてはあまりにもあまりな扱いのような気もしますが、このシリーズの場合は探偵役が強烈な個性を放つ存在感の大きな人物というわけでもなく、主人公はあくまで「館」なので、これでいいんでしょうね。
その主人公たる「館」はその異様さとそこに住む人々の不気味さとで、やはりどの人物にも勝る大きな存在感を示しています。
もちろん、過去に登場した「館」同様、仕掛けやからくりもあります。
やっぱり「館シリーズ」はこうでなくっちゃ♪と、シリーズのファンならうれしくなること請け合いです。
毎回思うことですが綾辻さんは雰囲気作りが非常にうまい作家さんなので、いつしか作品の世界にどっぷりと引き込まれ、これだけの大長編作品でありながら途中でだれることもなくぐいぐいと読まされるのです。
綾辻さんが作るその「本格ミステリの雰囲気」を久々に味わえたというだけで、私としてはとてもうれしかったです。
今回の綾辻さんの文体はなんとなく京極夏彦さんのそれに似ているような気がしたのですが、気のせいでしょうか。
ホラーの雰囲気を強く醸し出していましたが、ホラーはそれほど好きではない私でも抵抗はそれほどありませんでした。


トリックの方は…メイントリックがちょっとずるいような気はしますね、やっぱり…。
でも、地の文が○○○で書かれているという時点でミステリを読み慣れている人なら大体どんなトリックが使われているかの想像はつくでしょうし、ヒントはあちこちにふんだんに散りばめられているので、注意深く読んでいればけっこう容易に真相にたどり着けるのだと思いますが、私はすっかり騙されてしまいました(汗)
まぁ確かに違和感はところどころで感じてはいたのですけど…ちょっと勘違いをしてしまっていたなぁ。
悔しいけれど綾辻さんの罠にかかってしまった、というところでしょうか。
でも…シリーズ1作目にして綾辻さんのデビュー作である『十角館の殺人』を読んだ時の「あの一行」の衝撃に勝る驚きと意外性はなかったのはやはり残念でした。
もう一度あの衝撃を味わえる日は…来るのでしょうか。
楽しみに待っているんだけどなぁ。
やはり「館シリーズ」の読者は多かれ少なかれ皆こうした期待を綾辻さんに抱いてしまっていると思うのですよね。
だからこそ、待望の超大作でありながら、なかなかいい評価が得られないのでしょうね。
1作目の出来がよすぎた(瑕疵もないわけではないと思いますが)ことが作者の足を引っ張ることになってしまっているとは、なんとも皮肉だなぁと思います。
でも、綾辻さんは本当に雰囲気作りも物語の運び方もうまい作家さんですから、それだけでも読む価値はあると思うのです。
そんな作家さん、なかなか貴重だと思いますよ。


最後にひとつ気になるのは、暗黒館の当主の息子・浦登玄児がなぜ大学の後輩である中也を「ダリアの宴」に招き、半ば強引に「仲間」に引き入れたのか、ということなんですが。
作中では結局はっきりとした説明はなされませんでしたよね?
ちょっとあやしげな雰囲気の2人でしたが…、ま、まさか、ねぇ(汗)
☆4つ。